白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫は一日も待てなかった

ディアナが後宮に連れて行かれて、時間はすでに深夜になっている。

「ルトガー。準備は出来たか?」
「もちろんです。でも、大丈夫ですかね?」
「あの後も何度も行ったけど、ディアナを一向に出さないのだから仕方ない」

そう。あの後も、何度もクレイグ殿下の後宮に突撃したが、その度に追い返されていた。
アスラン殿下に頼もうとしても、クレイグ殿下の後宮に入る許可はアスラン殿下にはない。
それに、呪いが強まっているのか、アスラン殿下は臥せったままだ。

現状は、アスラン殿下を当てにはできないし待つつもりもない。

「フィルベルド様が何度も突撃するから、この邸はクレイグ殿下の部下が密かに張ってますよ」
「どうせ、夜には来てほしくないんだろう」
「それは、フィルベルド様が一日に何度も突撃するから、疲れて休みたいのではないですか?」
「好都合じゃないか。寝ていた方が忍び込みやすい」

クレイグ殿下の後宮に忍び込むために、黒ずくめの衣装にルトガーと着替えていた。
ディアナに会わせてくれないなら忍び込むしかない。

「様子を見るだけですよ。勝手にクレイグ殿下の後宮にいる女性を連れて出れば、フィルベルド様が誘拐の嫌疑をかけられるかもしれませんからね。そうなったら……」
「そんなことを気にしている場合ではない。いつディアナに手を出されるかわからないのだぞ。後宮にいるということはそういうことだ」

この邸は、アスラン殿下が俺たちのために下さったもの。
だが、この邸が城から近いのには理由があった。

元々この邸はアスラン殿下のもの。そのおかげで、城からの非常時の脱出通路が繋がっている。

外にはクレイグ殿下の部下が、俺が後宮に行く事を見張っている。
だから、その通路を利用して急いで城へと向かった。

「……本当なら、正面から連れて帰るべきだった」
「仕方ないですよ。クレイグ殿下が会わせてくれないのですから……でも、どうしてクレイグ殿下は奥様にこだわるのでしょうか?」
「……多分、クレイグ殿下が一番にディアナの『真実の瞳』に気付いたんだ。イクセル殿に変身してまで来たんだぞ。ディアナには、イクセル殿ではなくて、クレイグ殿下本人に見えていたはずだ。クレイグ殿下は、ディアナには変身魔法が効かないことがわかっていたんだ。それとも、それで確信を持ったかだ」

非常用の通路をひたすら走りながら、ルトガーと話を続けていた。

「……『真実の瞳』を俺たちに隠すということは確実ですかね?」
「間違いないだろう。アスラン殿下の呪いはクレイグ殿下のかけたものだ。俺たちが『真実の瞳』を手に入れられないように、ディアナを無理やり連れて行ったんだ」

クレイグ殿下は、アスラン殿下の呪いのことも当然知っている。
知っているのは、アスラン殿下の家族と第二騎士団のみ。

そして、陛下にさえ居場所を秘密にして隣国ゼノンリード王国に、第二騎士団がアスラン殿下を連れて逃げた。
陛下も、誰が犯人かわからないから、と納得をしてもらっていた。
おかげで、クレイグ殿下にも居場所が特定出来なかった。

だが、国から情報を得るのに『真実の瞳』を探していることは陛下たちには伝えていた。。

それでも、『真実の瞳』は見つからず、これ以上隣国ゼノンリード王国にいることは、アスラン殿下の療養説や国を放置しているという噂を打ち消すために帰国を余儀なくされたのだった。

クレイグ殿下は、焦っていたのだろう。
どこでディアナと知り合ったのかは、いまだにわからないがディアナを無理やり連れて行ったということは、アスラン殿下の呪いを解かせたくないのだ。

「それとも、やはりディアナが可愛いから、無理やり連れて行ったのか?」
「まぁ、その線も捨てきれませんけどね……あの奥様は、誰にでもなびく感じには見えませんので、クレイグ殿下では落とせないと思いますけど……クレイグ殿下が誰かを本気で気に入るとも思えませんし……」

ルトガーと話しながら走り続けて城に着くと、ひっそりとクレイグ殿下の後宮へと向かう。
クレイグ殿下の後宮の庭に着くと、どの部屋も真っ暗で、どこにディアナがいるのかわからない。

「魔法でわざと暗闇で覆っているところもありますね……」
「だが、ディアナには効かないかもしれない……しかし……」

今夜は月も出ていない暗闇だ。
こんな暗闇にディアナを閉じ込めているのかと思うと、腹ただしいものがある。

「全ての部屋を探すぞ。必ず見つけて連れて帰る!」
「はっ!!」

そうして、衛兵たちに見つからないように、ルトガーと後宮に忍び込み一部屋一部屋ディアナを探し始めた。








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