白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません！

夫は妻を離さず怒っている

「すぐに帰ろう。ここには、置いておけない」
「クレイグ殿下は？　あの人が来るかも……」

目尻の涙を拭きながらそう言うと、足枷の鎖が音を立てる。

「鎖でつながれていたのか……！　なんてことを……！」
「外れないんです……鍵穴もわからなくて……」

フィルベルド様に優しくベッドに下ろされると、鎖と足枷を指で確認し見ていた。

「鍵穴がないな。これは魔法の鎖だ。すぐに外してやる」

フィルベルド様が鎖に手をかざすと、カチンッと小さな音がした。
足枷が外されると、自分の足が軽くなったと感じホッとする。

「足が赤くなっている。すぐに治さねば……！」
「ひゃっ……！」

足を心配する彼に軽々と縦抱きにされ、張りつめた緊張から少しいつもの自分に戻っていた私は、目の前にフィルベルド様の顔があることに恥ずかしくなる。

「だ、大丈夫ですよ！ 私が外そうとガチャガチャしただけですし……！ 歩けますから下ろしてくださいね！？」
「ディアナを裸足で歩かせるわけにはいかん。このまま連れて帰る」
「で、でも、私は重いですし……」
「妻を抱くのに、重いなどと思うことはない」

照れるようなことをサラリと言い、部屋から出ようとするとゾッとした。

「キャア！？」

廊下には、真っ黒のモヤが広がっていたのだ。それが怖くて、フィルベルド様にしがみついた。
怯える私と違いフィルベルド様は足を止めて、恐ろしい顔になっている。

「やっぱりディアナには、コレも見えるんだね」
「クレイグ殿下……どうしてここに……それに、クレイグ殿下がこの黒いモヤを作っているんですか？」
「どうしてって……当たり前だよ。あんなに大きな音を立てて後宮を壊されて、わからない訳がないだろう」

廊下にはクレイグ殿下が立っており、フィルベルド様はその瞬間に無言でナイフを投げた。
ナイフには、魔法がかかっておりクレイグ殿下の周りが風で切り裂かれたが、彼はとっさに魔法で障壁を張っていた。クレイグ殿下には傷一つついてない。

「問答無用で攻撃するなんて、君たちは似た者夫婦かい？」
「クレイグ殿下。よくもディアナを鎖で繋ぎ、閉じ込めましたね……！」
「フィルベルドが怒るのは、初めてみたね。６年も放置していたのに、ディアナが気になるの？」
「当然です。……クレイグ殿下。あなたを捕らえます」
「何の罪で？」
「ディアナに見えている黒いモヤは、呪いでしょう。これがここにあるということは、あなたが呪いを作ったのです……アスラン殿下の呪いはあなたで間違いない」

クレイグ殿下は、嘲笑気味になったかと思うと、今までに見たこともない鋭い目でフィルベルド様を捉えた。

「あぁ、本当に嫌になる……この６年で予言が変わるかと思ったのに……無駄だったね」
「あの予言はアスラン殿下のせいではありません。誰のせいでもないのです」
「フィルベルドやアスランには、私の気持ちなどわからないよ」

そう言うと、私たちとクレイグ殿下の間に火が立ち昇り、うねるようにこちらに向かってくる。それをフィルベルド様は、腰から短剣を抜き切り裂いた。

「キャア！！」

熱に焼けそうな程なのに、フィルベルド様が私を離すことなくうねる火を切り裂きながら避けていた。
廊下は焼け、焦げる匂いが満ちていく。

その中を、フィルベルド様は火を避けながら、クレイグ殿下に間合いを詰めていき首筋に短剣を突きつけた。

「私に止めを刺すと、呪いに捧げた触媒がわからなくなるよ」
「なら、今すぐに吐いてもらおう」

フィルベルド様が私を抱えたまま、短剣を突き付けているとクレイグ殿下の手が動こうとした瞬間に、首筋にもう一つ短剣が光った。

「動かないでくださいね」
「ルトガー。お前まで来ていたのか。これだから、第二騎士団は嫌いなんだよ」

いつの間にか、ルトガー様もクレイグ殿下の首を捉えている。

「これ以上やったらこの後宮が全焼するだけですよ」

フィルベルド様が冷たくそう言った。

「それは困るね。でも、もういらないかな……『真実の瞳』をフィルベルドが手に入れたから」

いつものつかみどころのない表情に戻ったクレイグ殿下は、諦めたように宙を見ていた。