白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫婦の帰宅

長い1日だった。

フィルベルド様とアスラン殿下のもと、クレイグ殿下は城の塔に幽閉され、私はフィルベルド様が幽閉しに行っている間に、彼の手配した魔法使いに足枷で赤くなった痕を治してもらっていた。
これくらい大丈夫だと、何度言ってもフィルベルド様は、心配しすぎて譲らなかった。
そして、ここでもフィルベルド様の溺愛ぶりに足を治してくれた魔法使いは驚いていた。

クレイグ殿下の幽閉が終わると、真っ直ぐに私のところへ帰って来てくれる。
それが、心細かった私を安心させた。

明け方には、フィルベルド様に抱きかかえられたまま邸に帰ると、オスカーにミリア、それにイクセルまで寝ずに待っていた。
皆が私の帰りを心待ちにしてくれていた事に感動してしまう。

「イクセル。大丈夫だった? 怪我をさせてごめんなさい……」
「助けられなくて悪かった……怪我もフィルベルド様の部下の魔法使いの方が治してくれた。おかげで、痕も残らないよ」

元気な様子のイクセルを見るとホッとした。

「フィルベルド様。ありがとうございます」
「イクセル殿は、ディアナを助けようと怪我をしたんだ。それにディアナの大事な友人だ。彼を労わるのは当然だ」

優しいなぁ……と思いながら、部屋に抱きかかえられたまま連れて行かれると、ミリアが部屋を温めており、温かいお茶が冷めないようにティーコージーも被せられていた。

そのまま大事なものを下ろすように、そっとベッドに下ろされる。

「フィルベルド様。ずっと重かったですよね? ありがとうございます……」
「これでも力も体力もあるし、ディアナなら一日中持ち歩きたいくらいだ」

うっとりとした顔で、恐ろしいことを言っている。
ずっと離してくれないフィルベルド様に、それは冗談ですよね? と何故か聞くことが恐ろしい。

聞かなかったことにするしかない。

「……フィルベルド様もお休みになってください。私はもう大丈夫です」
「ディアナが眠れば、俺も部屋で休もう……」

ベッドで休むように促されて、シーツをかけられる。フィルベルド様は、頭を撫でながらさらにうっとりとしていた。

「ディアナ……クレイグ殿下とは、いつ知り合ったんだ? 俺がいなかった時か?」
「夜会です。フィルベルド様とアルレット様が逢い引きしていたのを一緒に覗きました」
「や、夜会!?」

フィルベルド様は、不味いというように冷や汗をかき始めている。

「すみません……のぞき見なんてはしたないことをしてしまって……でも、フィルベルド様がアルレット様をお好きなら、私は……その……」
「あれは、俺ではない! 好きなのはディアナだけだ! あの時は、アスラン殿下になりすましていてだな……」

否定するフィルベルド様には鬼気迫るものがある。

「それで、アルレット様にキスをしていたんですか? でも、私にはアスラン殿下になっているかどうかわからないんです……でも、クレイグ殿下があの時のアスラン殿下がフィルベルド様に見えたのは、私だけだと……自分が何を見ていたのかわからないんです」

クレイグ殿下に『真実の瞳』のことを言われるまで、あれがフィルベルド様だとわからなかった。今でさえ、私には区別がつかない。

「『真実の瞳』のことを知らなかったんだな……だが、あれは、アスラン殿下のつもりで手にしただけだ! フィルベルドとしてしたことは一度もない!」

仕事なのだろうけど、申し訳なさそうに謝るフィルベルド様を責めることは出来なかった。

「他にはクレイグ殿下とどんな話をしたんだ? なにかされなかったか?」
「……フィルベルド様が、アスラン殿下の代わりに女性と同衾していた、というようなことも言っていました」
「クレイグ殿下はそのことも話していたのか!?」

あの男は……!! と憎らしくなっている。
もしかしたら、本当のことかもしれない。こんなに知られたくない様子だ。

『君も私と同じうそつきだね』

……重いものが身体にのしかかってきた感じになると、クレイグ殿下の言葉が思い出された。でも、その気持ちを隠すように唇を引き締めた。

「あの……気にしてませんからね。仕事だとわかりましたから……ですから、フィルベルド様が女性を召しても……私は……何も言いません」
「それは困る。ディアナには疑われたくないんだが……その……アスラン殿下しか知らないことだが、実は誰一人閨を共にしてない」

秘密事項な出来事。
アスラン殿下になりすましていたことを言いにくそうに、一呼吸おいて話し出した。

「アスラン殿下になりかわっていた時、確かに寝所に女性を召さなければならない時もあった。だが、どうしても受け入れられなくて、女性に魔法をかけて眠らせていたんだ」

アスラン殿下に不能の噂が立たないように、最低限の閨をしなければならない時には女性を眠らせてやり過ごしていたと、言いにくそうに話している。
女性も殿下の寝所で眠るなんて周りには言えなかっただろう。
閨済ましたと思い込んでいた女性もいたそうで、そこを上手く使っていたらしい。

そこまでして、この6年私を気にしていたことに驚いてしまう。
手紙だって素っ気ないものだったし、帰って来るまでは嫌われているとさえ思っていたのだ。

「触れたいのは、ディアナだけだ。ディアナ以外はいらないし、誰かに奪われればまた取り返しに行く」
「はい……」

愛おしそうに指に口付けをされると、覆いかぶさるように唇が重なっていた。






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