白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

妻の『真実の瞳』

馬車の中でも離れないフィルベルド様と一緒に急いでお城で待っているアスラン殿下のもとへと行った。
ルトガー様は、やっと来ていただける、とホッとしている。
一体いつから待たせていたのか……申し訳なくて馬車の中でも何度も謝った。

ルトガー様は、アスラン殿下や陛下から、私とフィルベルド様を連れて来るように言われていたのに、フィルベルド様がおかしなことばかり言うから板挟みで大変だったようだ。

フィルベルド様に手を繋がれ絶対に逃がさないという気迫のもと、アスラン殿下の部屋へ行くと、アスラン殿下は椅子に座って待っていた。

「ディアナ、来てくれたんだね。もう大丈夫なのか?」
「お待たせしてしまって申し訳ありません!」
「大丈夫だよ。兄上は、今は呪いを強めることができないから、いつもよりも落ち着いているんだ」

アスラン殿下は、陛下と違いクレイグ殿下を牢に入れようとしなかった。
複雑な気持ちがあるのだろうけど、それを口に出すことは無かった。

その間もフィルベルド様は一向に離れない。過保護なほど私を心配している。

「早速で悪いが、私を見てくれるか? 誰が調べても身体のどこに呪いがかかっているかわからないんだ」

アスラン殿下は、そういうけど正直わからずに困惑する。
座っているアスラン殿下に異変があるかどうかわからないのだ。

「……フィルベルド様。呪いとはどういうものですか? 私にはわからなくて……」

どれが呪いかわからない。以前も任命式で座っているアスラン殿下をチラッと見たけど違和感なんか無かった。変なものが見えていれば、どうしたのだろうと思ったはず。でも、わからない。

「クレイグ殿下の後宮にあった、あの黒いモヤのような強いところはないか?」

フィルベルド様が、側にいたままそう言う。

「そんなものはどこにも……」
「見るのに何か必要なものがあれば準備するけど?」

そう言われても、目の前に見えているのはアスラン殿下のお姿で、どこにも違和感はない。
それでも、アスラン殿下をじーっと目を凝らして見ていた。

「アスラン様。ディアナは自然と見えているそうで……魔法で隠れたものも普通に見えるほどなんです」
「凄いな……それにしても『真実の瞳』をディアナが宿していたなんて……」
「全く気づきませんでした。おかげでディアナに捨てられるところでした」
「フィルベルドが?」
「ディアナには全て話しました。アスラン殿下の影武者が俺だったと……おかげで、俺は浮気者扱いでした」
「フィルベルドがそうならないように、邸も城へと通じる邸をあげたんだけど……無駄だったか?」
「あれは、役に立ちました。おかげでクレイグ殿下に見つからずに穏便に後宮に忍び込めました」
「それまで何度も突撃して困りましたけどね。狂ったのかと思いました……」

ルトガー様が呆れ顔で最後にそう言った。

アスラン殿下は、何かあった時の為に密かに城へとフィルベルド様に来てもらえるように、あの城へと通じる非常用の通路のある邸をどう渡そうか考えていたらしい。
そして、私がいつまでも邸を決めないから、ちょうどいいと思い邸を自然に渡せることができた、ということだった。

フィルベルド様と一緒に暮らすことに戸惑い、しかも大きな邸に尻込みしていたことが、まさかの功を奏していたとは……。

その間もアスラン殿下を見ていると、フィルベルド様は「無理しなくていいんだぞ」と私を抱き寄せたまま労わっている。

理由は一つではないけど、6年も帰って来れないほど必要としていた物だ。
フィルベルド様が、無理やりしないのは私が『真実の瞳』を宿しているからだ。
でなければ、すぐにでもアスラン殿下に使っていただろう。
役に立たなくて申し訳なくなる。

「……やはり、兄上に頼むか……」
「あのクレイグ殿下ですよ。素直に教えるとは思えませんけど……」

ルトガー様がそう言った。

「クレイグ殿下は、もしかしたら試しているのかもしれません。どんな方法だろうと、アスラン殿下、それに俺たちが呪いを解いて予言通りになるかどうかを……あの予言を一番気にしていたのは、クレイグ殿下だったのですよ……俺たちが思うよりもずっと気にしていたんです」

フィルベルド様がそう言うと、アスラン殿下もルトガー様も頷いていた。

「私のせいだ……兄上が悩まないわけがなかったのに、いつも変わらない兄上に安心していたんだ」
「クレイグ殿下にも言いましたけど、あの予言は誰のせいでもないのです」

座ったままテーブルに肘をつき、うつむき加減のアスラン殿下にフィルベルド様がそう言った。

「あの……予言って何ですか? 私が聞いてもいいでしょうか? クレイグ殿下は、私を連れて逃げようとまで考えていたんです。予言通りになるだろう……と言って……」

あの時のクレイグ殿下を思い出すと悲しくなる。
いつ手を出されるかと、不安と怖いと思う気持ちと同時に悲しかったのだ。
そんな気持ちとは裏腹に、肩に置いているフィルベルド様の手に力が入る。

「まさか……駆け落ちか!?」
「違います!! 私が一緒に逃げようとしなかったから、ずっと鎖に繋がれていたんですよ!」

その言葉に一瞬壊れそうだったが、壊れることはなくフィルベルド様は神妙な表情を見せた。

「一緒に逃げようとしなかったのか?」
「当然です。私は……フィルベルド様の妻ですから……」
「……俺は、6年もまともに連絡も取らずに酷い夫だっただろう? アスラン殿下になりすましていたとはいえ、他の女といるのも見せてしまい、その上、離縁をしようとまで追い詰めてしまっていた……」
「……フィルベルド様のせいではありません」

理由がわかれば、フィルベルド様が帰って来られなかったのは当然のこと。
アスラン殿下の命がかかっていたのだ。他人に居場所を知られず、アスラン殿下を隠し、それでも必要最低限の公務もしなくてはならない。
私では想像も付かないほど大変な6年だったと思う。

それでも、孤独だった私のことを忘れることなく帰って来てくれたのだ。

「やはり、騎士団は辞めよう。二人でアクスウィス公爵領に帰って一緒に過ごせばいい」

包み込むように抱きしめられて、そう言われるとじんと来るものがあった。

でも……。

「ダメですよ。私のために騎士団を辞める必要はありません。ここでも一緒には暮らせますから……それに我に返ってくださいね」
「いつも冷静だが……?」
「ちょいちょいおかしいですよ……」
「ディアナが、どこかに行くかもしれないと思うとおかしくなりそうだ……」
「そうですか……」

フィルベルド様に大事に抱擁されていると、アスラン殿下がクスリと笑う。

「フィルベルド。この仕事が終われば、休みをやるから今は私を助けてくれ。兄上のしたことを甘んじて受けるべきなのだろうが、そうはできない。兄上に嫌われてでも私は役目を全うする。ディアナにも必ず報いよう」

そして、一呼吸おくとフィルベルド様は「ディアナにはあの予言を話しましょう」と話し出した。




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