白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫婦の朝

初めて一緒の朝を二人で迎えたけど、朝からフィルベルド様は離してくれない。
ベッドから降ろしてくれず、すでに起きているのに着替えも出来ないまま何度も唇を交わしてくる。

「ディアナがいるなんて、本当に夢みたいだ……」

熱っぽい眼で、頬を撫でながら見つめられると、とてもじゃないが直視できない。
……顔が良すぎる。誰が見ても見目麗しい金髪碧眼。この顔で何度も「好き」と言われた。
思い出すだけで、倒れそうになる。

「……ディアナ。どうして顔を背ける?」
「私にも乙女心というものがありましてね……」

熱くなっている顔のまま、恐縮したように身体が小さく丸まる。身体全体から羞恥が溢れているようだった。
そんな私にお構いなく、フィルベルド様は頬や眼にと唇を這わしていた。

「フィルベルド様……お仕事に行く準備は……」
「今日は、午後に少しだけ顔を出すぐらいで、あとは休みだ」
「お休みが取れたんですか? もし私でお役に立つなら、お手伝いいたしますよ」

私の『真実の瞳』が少しでお役に立つなら、フィルベルド様のために使いたいという気持ちはあった。

「……後宮の破壊が予定より早くに進んでいるから大丈夫だ。それに、ディアナの『真実の瞳』のことは知られないほうがいい。今は第二騎士団総動員で後宮を壊しているから、『真実の瞳』をディアナが宿していると知られないようにしてくれ。第二騎士団で知っているのは、ルトガーとフランツだけだ」
「フィルベルド様の部下の方でもですか?」
「騎士団には移動もあるからな……全員に伝える必要はない。ディアナも『真実の瞳』のことは誰にも話さない方がいい」

フィルベルド様の目の届かないところで、他言されることを恐れているのだろう。
それは、私を守ろうとしてくれているのだとわかる。

「それにしても、本当に不思議だな……普通の瞳と何ら変わりない。ディアナの綺麗な眼にしか見えない。一体どこでこの遺物を宿したのか……」
「わ、私も気づいてませんでしたから……」

食い入るように眼を見られると、とてもじゃないが眼が開けられず照れてしまう。

「いつ遺物を見つけたか、もしくは使ったか……わからないのか? あの魔法の箱に入っていたと思うんだが……」

そう言われても、覚えてない。あの箱はお母様のもので、いつも庭や近くの森で葉っぱや綺麗な草を集めていた。ちょうどいい大きさの箱だったから葉っぱを詰めるのに使っていたのだ。
そのうち、葉っぱから花に興味が移っていた気がする。

お母様がよく倒れていたから、早く元気になって欲しくて庭の花を持って行っていたのは覚えている。

「……一度酷い熱を出したことがあるそうで、子供の時のことであやふやなところがあるんです。思い当たるのはそれくらいですけど……お父様もお母様もいないから、もう誰にも確認できませんね」

「そうか……」と言って、フィルベルド様は私を後ろから包み込むように腕を回してベッドの上のままで頷く。まだまだ、ベッドから降りるのは名残惜しいらしい。

「フィルベルド様。そろそろミリアがやってきますよ。朝食に行かないとオスカーたちも心配します」
「朝食は部屋に頼まなかったのか? 今からでも持って来させるか?」
「い、いえっ……大丈夫です。その……朝食は一緒に摂りたいので……」

朝食なんか頼めば、昨夜のことがバレバレじゃないですか。
恥ずかしい。まだ、主寝室も使ってない夫婦なのに、いきなり夫婦になったと思われるのは……。
いや、でもこれが夫婦なのだろうか。

「では、着替えてまた迎えに来よう。今日はどこかに行こうか」
「……クレイグ殿下がお菓子を欲しがっていたので、また持って行こうと思っていたんですけど……」
「あの男は甘い物が好きだからな……」

そう言いながら、フィルベルド様はベッドから降りてシャツを着ている。

甘い物が好きなら、チョコレートとかの方がいいのだろうか、と私はお菓子のこと思い浮かべていると、フィルベルド様は真剣な表情で話し出した。

「ディアナ」
「はい」
「近々クレイグ殿下は『殿下』ではなくなる。もう『殿下』というのは止めた方がいい。王太子はアスラン殿下で決まりだ。要らぬ混乱を招かないためにも、彼のことは『殿下』と言わないようにしてくれ」

『殿下』でなくなるなら、王太子候補でもなくなるということ。王位継承者の中から外れるのだ。フィルベルド様の言っていることはわかる。

「わかりました……でも、国を出されるんですか? 国外追放になるだろうと、クレイグ……様が言っていました」
「国外追放は、アスラン殿下と王妃様が止めている。幽閉期間が終われば、もう城にはいられないが放置もできない。おそらくどこかの貴族の預かりになるだろう」

城から出ても、しばらくは見張りを付けることにしたいということだろうか。

「菓子を持って行くなら一緒に行こう」
「いいんですか?」
「一人で行かせたくない……それに、正直に言えば少し責任も感じている。何を考えているのかわからない男だったから、まさかあれほど予言を気にしているとは思わなかった。王位に執着もしていないのに……」

それでも、フィルベルド様は幼い時からアスラン殿下といたから、クレイグ様のことも幼い頃より知っていたはずだ。
でも、彼がそこまで悩んでいたことに誰も気付かなかった。

「クレイグ様は、ただ悲しかっただけです。私も彼は王位に興味はないと思います。でも、自分の努力していたことが無駄になり、その喪失感や葛藤の行き場所がなかったのです。クレイグ様はずっと一人だったから、それを埋めることすらできなかったのです。……それに、たまたま弟君のアスラン殿下の才能がありすぎたのです。その上、アスラン殿下は人格者です。余計にそう感じてしまっただけなのですよ」

太陽のようなアスラン殿下の周りには、きっといつも人がいたのだと誰が見ても予想が付く。
実際に、フィルベルド様がいつもアスラン殿下と一緒にいてそうだった。そうわかっているから責任を少しでも感じているのだ。

「あの男の話はこれで終わりだ」

私の言ったことに納得するものはあるようだが、どこかムッとしたような顔になりながらも唇を交わしてくる。
そして、大事なものに触れるような優しいキスをして、フィルベルド様は部屋を後にした。









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