白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫は俺だ!!

卵が乗ったパンだけ頼んだはずなのに、フィルベルド様はシードケーキに甘いイチゴジャムを添えたものを私に頼んでくださった。

「パン一つじゃ足りないだろう」
「……ありがとうございます」

夫からの優しさに戸惑い、お茶のカップで口元を隠しながらそう言った。

……私の隣で、優しく微笑むこの金髪碧眼の男前は一体誰だろうか?
何故、私は騎士たちに見守られながら、朝食を摂っているんだろうか?
仕草もスマートで、お茶を飲む姿でさえ絵になるこの男性が本当に夫なのだろうか?

フィルベルド様は、確かに見目麗しい方だった……でも、こんな素敵な笑顔は無かった。

私の記憶は一体どうなっているんだろうか……わからない。

「お茶は甘いものが好きなのか? 他には何が好きなんだ?」
「お茶は、何でも好きですけど……どうして私を探していたんですか? 私が、フィルベルド様に気付かなかったからですか?」

それなら、申し訳ないけど……14歳で一度だけ、しかも短い時間だけお会いして、顔がおぼろげだったのはどうか許して欲しい。

「……ディアナ。実は……昨夜に屋敷が全焼したんだ。それで、夜会に君の姿もないし、自殺をしたのかと思ったが……遺体が一つも見つからなかったから、もしや攫われたのかと思い騎士団で捜索していたんだ……見つかって本当に良かった。ディアナがいなくて生きた心地がしなかった……」
「…………ぜ、ぜぜ、全焼!?」

なんで!?

昨夜は、フィルベルド様にお会いできなくて、離縁を決意して屋敷を一人で出た。
それが、なんで全焼になるの!?

しかも、知らなかったとはいえ、捜索している時に私は喫茶店で優雅に朝食を摂ろうとしていたとは!?

「……どうして全焼に……? 火の気はなかったはずです……!」

私は、夜会から帰ってすぐに着替えて屋敷を出たから、暖炉一つつけてない。
お湯だって沸かしてない。

自然に火がつくなんて有り得ない。まさか、放火の二文字が脳裏をかする。
放火されたと思うと、怖くなり、あの屋敷にいれば助かったかどうかもわからない。
それに、白い結婚とはいえ、フィルベルド様の用意してくださった屋敷を守れなかった。
なんとお詫びすればいいのかわからない。

思わず動揺して、カップを音を立てておいてしまった。

「……ディアナ。怖がらせるつもりはない。君のことは必ず守ろう」

私の動揺に気づいたフィルベルド様が、私の手を両手で包み込んだ。その手は優しく温かい。

「……フィルベルド様。私……なんとお詫びすればいいのか……」
「ディアナ……震えている。すぐに休もう! 君は目が離せない!!」
「いや……あのですね……」

勢いよくガタンと立ち上がったフィルベルド様はあっという間に私を抱きかかえた。

「すぐに帰ろう! こんな時にお茶なんかしている場合じゃない!」
「キャア! やだ! 降ろしてください!」
「こんなに震えているじゃないか! 歩くのは危険だ!」
「だって夫が……!」
「夫は俺だ!!」

そうでした。この金髪碧眼のイケメンが夫でした。先ほど、夫だと判明したばかりだけど!!
しかも、歩くことの何が危険!?

衝撃の事実に頭がいっぱいで、震えているのも間違いないけど……こんなちょっとの震えで抱きかかえる人はいない。
そこまで私は、か弱くないのだ。

「ディアナ。君は最愛の人だ」
「一体いつから!?」
「さぁ、行こう」


訳もわからず、フィルベルド様の腕の中で両手を握りしめ小さくなる私を抱きかかえて彼は、喫茶店の中を闊歩して行く。

このフィルベルド様の行動力がわからないまま、私は、彼の馬に乗せられてどこかに連れて行かれた。






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