秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
(自分の連絡先を伝えただけで、彼女のを聞かなかったのは正解だったな)
 昼夜問わずにしつこく電話して、彼女をおびえさせる結果になったかもしれない。

 欧米ではニューイヤーシーズンには長めの休暇を取るのが一般的だが、立ちあげたばかりの新企業にその法則は適用されないらしい。
 ロンドンに着いた早々から志弦は仕事に忙殺されていた。体力的にはきついが、精神的にはかえってよかった。忙しいほうが清香を思い出さなくて済む。

 昴との結婚がどうなったのか、清香がどう過ごしているのか、気にならないと言えば嘘になるが……振られた直後の今は冷静になれそうにない。
 やっぱり昴の妻になるなんて彼女の口から聞かされたら、とても正気を保てない。

 大河内グループの社運を懸けて立ちあげた新企業の社長は、銀行時代から長く世話になっている谷口という優秀な男だ。亡き祖父、源蔵がとてもかわいがっていた人物で、現在のグループ内では〝志弦派〟の筆頭人物ということになっている。
(本人に戦う気がないのに、志弦派と言われてもなぁ)

 志弦は昴と権力争いをする気はない。お家騒動ほど社員と株主と顧客に迷惑をかける行為はないと思っているからだ。
 だが、谷口はそれを許してくれない。こうして連日志弦を社長室に呼び出しては懇願してくるのだ。
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