秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「言い訳になるが、この数か月は諸々の対処に奔走していた。駒子さんからの手紙をもらってすぐ、君の捜索は調査会社に頼んだ」
「調査会社?」
 そんな人たちに調査をされていたとは、気がつきもしなかった。志弦は申し訳ないと言いたげに目を伏せる。

「ストーカーじみていることは自覚しているが、俺自身がここに出向くことが許される状況ではなくて」
 それは理解できる。遺言書偽造は紛れもない犯罪行為だ。
「ロンドンの仕事を整理して、日本に戻って遺言問題の対処をして、ようやく清香に会いに来れた」
「そんな事態になっていたんですね。それで、涼花さんは?」
「今は弁護士も涼花さんも罪を認めていて、正しい遺言状も見つかったよ」

 その内容は、大河内グループの後継者を志弦に託すこと、そして――。
「祖父は清栄の孫娘を後継者の妻に……と望んでいた」
 涼花と弁護士は遺言を大きくいじることはしなかった。シンプルに志弦の名を昴に書き換えただけ。そのほうが露見する可能性が低くなると考えたようだ。
「そ、それじゃあ」
 志弦は極上の笑みで告げる。
「あぁ。最初から君の相手は俺だった」

 志弦は清香の左手を取ると、薬指にキスを落とす。
「もっとも、清栄の孫娘でなくても、俺は清香を欲しているけれど」
「私も。志弦さんが大河内家の御曹司だと知る前から、恋に落ちてました」
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