秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 尾野美術館のスタッフと常連客。ふたりの恋はここからすでに始まっていたのだ。
「正直に言うと、大河内グループ代表の妻はなにかと面倒なことも多いと思う。でも、君とおなかの子を必ず幸せにすると誓うから。どうか俺と結婚してほしい」
「よ、よろしくお願いします」
 感極まって泣き出してしまった清香を、彼はもう一度、その胸に優しく包み込んでくれた。

 志弦は昨夜から滞在しているというホテルに戻ってチェックアウトを済ませると、また清香のアパートに帰って来た。
「本当に出産まで、ここで暮らしてくれるんですか?」
 もちろんうれしいけれど、気になることも多い。
(絶対に仕事も忙しいのに、無理してないかな。それに、このアパートひと部屋しかないし……)
「出産に立ち会うために不眠不休で働いてきたんだ。数か月程度の休暇に文句は言わせないよ。部屋は清香が一緒ならどこでもいい。ホテルでもいいけど、君はこっちのほうが落ち着くだろう」
「はい。私は体重管理のために自炊したいので、自宅のほうがありがたいです」
 このところ体重が増えすぎていて、医師から節制するように言われている。ダイエットレシピを研究するのも楽しくなってきているところだった。

「俺は清香といたいから、ここで暮らしたい。俺が一緒だと迷惑か?」
 不安げな顔でそんなことを言われてしまって、慌てて首を左右に振る。
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