秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「迷惑なはずないです。私はうれしくて、ものすごく浮かれてしまうと思いますが……そんなに広い部屋ではないので志弦さんは不便じゃないかなって」
「君が一緒なら狭いほうが好都合だ」
「え?」
 ふいに彼の顔が近づいてきて、ついばむような口づけをされた。
「ほら。こうやっていつでもキスできるし」

 破壊力抜群の殺し文句にアワアワしてしまう。両手で頬を挟んでみると、ものすごく熱くなっていた。
(出産まで、私の心臓はもつのかな。明日あたりには爆発しちゃうかも)

 ふたりはすぐに婚姻届を提出して、正式に夫婦として暮らしはじめた。ものすごく楽しくて、あっという間に時間が過ぎていく。大河内の本家は広すぎて同居感が薄かったので、この小さなアパートに感謝したい気持ちでいっぱいだ。

「志弦さん。このネギ、下がつながってます」
 狭い台所に清香の笑い声が響く。完全無欠に見えた彼は、意外にも不器用なところがあり料理は不得手のようだ。
「本当だ。清香に教わったとおりに切ったつもりなのに、どうしてだ?」
 困惑しているその姿が、悶絶するほどに愛おしい。

「次からは気をつける。清香に手伝ってもらわなくても作れるようにならないとな」
 彼は真剣な顔で包丁を握り直した。清香と子どものために料理を習得しようと一生懸命なのだ。そんな姿を見ていると、幸せが込みあげてきて、言葉にならない。
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