秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「清香は俺のヒロインだから。俺の前でだけ輝くんじゃないか?」
 真剣な顔で言ったかと思うと、彼はクスクス笑って肩をすくめた。
「ていうのは、さすがにうぬぼれすぎかな。けど――」
 耳元で甘くささやかれる。
「そうであってほしいと願ってる。清香のかわいいところも色っぽいところも、俺だけの秘密にしておきたい。ほかの誰にも知られたくないな」

 ドクンと大きく胸が跳ねて、清香の鼓動はそのスピードを速めた。
「――これ以上ドキドキさせないでください。出産前なのに心臓が爆発しそうです!」
 思わず叫ぶと、彼の口元から白い歯がこぼれた。
「デートしてくれるか? 俺の最愛の奥さん」
「はい!」

 志弦の差し出した手を満面の笑みで握り返す。つないだ手から愛が伝わる。身体中が温かいもので満たされていくような、そんな心地がした。

 アートがテーマのホテルらしく、レストラン内にも楽しい仕掛けがたくさんある。ゆったりとしたソファ席に座った清香は、好奇心を抑えきれずにキョロキョロしてしまう。

「なるほど! 食がモチーフの絵画を並べているんですね」
 壁面いっぱいに飾られた絵はどれも食べ物を描いたものだ。眺めているだけで食欲を刺激される。
「メニューも名画をイメージしているらしいぞ。ほら、前菜は『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』だ」
 そんな話をしていると、ちょうど前菜が運ばれてきた。
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