秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「わぁ、素敵!」
 かの名画にインスピレーションを得たという前菜は、サーモンと色鮮やかな夏野菜にジェノバソースがかかったものだ。
「たしかに。にぎやかな雰囲気があの絵っぽいかもな」
「味もおいしいですよ!」
 見た目の印象よりあっさりとした口当たりで、いくらでも食べられてしまいそうだ。

(志弦さんと一緒だと、なにを食べてもよりいっそうおいしく感じるなぁ)
 しみじみと幸せをかみ締める。
「そういえば、駒子さんが君が帰ってきたらパーティーをしようと張りきってたよ」
「本当ですか? 私も楽しみだなぁ。ウタは元気にしてるかな?」
「甘やかして太らせてしまったと、駒子さんが反省していたよ」
 碧美島での暮らしも気に入っているが、志弦は大河内家の当主となったので、ずっとここにとどまるわけにはいかない。無事に出産したら、一緒に東京に帰る予定でいた。
「俺は、しばらく、東京とロンドンを行ったり来たりの生活になりそうだ。育児が大変なときに一緒にいてやれなくてすまない」
 清香は即座に首を横に振った。
「こうして、碧美島まで迎えに来てくれて、出産に立ち会ってもらえるだけで十分です」
 実家を頼れない状況で育児をすることになるので、もちろん不安はある。けれど、本家には駒子も千佳もいるし、茉莉もきっと助けになってくれる。
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