秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「東京に戻ったら、俺の母親に会ってくれないか? 君と子どものことを話したらとても喜んでいたから……」
 志弦から実母の話を聞くのは初めてだ。離婚後は生まれ育った鎌倉に戻り、心を休めたそうだ。今は元気になっていて、ピアノ講師の仕事をしているらしい。志弦は年に数回は鎌倉に会いに行っていたそうだ。
「お義母さまがこの子の誕生をお祝いしてくれたら、すごくうれしいです。私は実家に絶縁宣言しちゃったので」

 いつかは和解できる日がくるかもしれないが、清香の気持ちとしてはすぐには無理だ。出産報告くらいはするとしても、子に会わせるつもりはない。
「本人は育児のアドバイスは期待しないでくれと笑ってたけどな」
 それでも、かわいがってくれる祖母の存在は子どももきっとうれしいはず。
(志弦さんのお義母さま……仲良くなれたらいいな!)

「そうそう。育児が落ち着いたら、ロンドンにも遊びに行かないか?」
 上品な仕草でナイフとフォークを扱いながら、志弦が言う。
「一緒に行ってもいいんですか?」
「もちろん。実は、もしあのとき君が一緒に来てくれたら、ロンドンで婚約指輪を買いたいと思っていたんだ」
「……婚約指輪」
 予想外の話に清香は目を丸くする。
「オールドボンドストリートのブランド店で探すのもいいし、ハットン・ガーデンで石を買ってオーダーメイドのリングにしても楽しそうだなと」
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