秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「いえいえ。このお部屋、大好きです! というより、私のセンスでこの部屋より素敵にできる気がしないので、このままで」
 清香が笑うと、志弦はそっと隣に腰をおろした。
「疲れていないか? こんなに賑やかなのは久しぶりだっただろう」
「全然! すごく楽しかったです」
「そうか。せっかくの楽しい気分に水を差すようで申し訳ないんだが……少し話をしてもいいか?」

 ためらいがちに彼が語り出したのは、涼花と昴のことだった。
「あまり大事にしたくない気持ちもあったが、彼女のしたことはやはり犯罪行為だから……法の裁き受けてもらうことになったよ」
 涼花と志弦に血のつながりはないとはいえ、家族には違いない。彼は苦しげな表情で簡潔に説明した。清香も深く詮索したいとは思わないので、黙って彼の話を聞く。
「昴はこの件には関与していなかったけれど、後輩や部下へのパワハラ紛いの行為があきらかになって、子会社に出向という形になった。勤務地は関西だから、もう東京にはいない」

 源蔵の正しい遺言に従って、大河内グループは志弦をトップとした新体制に移行している。清香との結婚も遺言どおりなので、反対の声は少なかったようだ。
「そうなんですね」
「それから――」

 志弦はそこで言葉を切ると、清香に向けて頭をさげた。
「榛名画廊を守ると言ったのに、約束を破ってすまない。俺の力不足だ」
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