秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「そんなっ、志弦さんのせいじゃありません」
 榛名画廊は閉店した。その後にオープンする予定だったクラシックカーの店も結局頓挫してしまい、画廊のあった場所は売りに出された。茉莉から聞いて、清香も状況は理解している。
「店を閉めると決めたのは、父ですから」

 失って初めて知ることもあるだろう。今頃、琢磨も少しは後悔しているかもしれない。
 実際、志弦が大河内家を継ぐとなれば手のひら返して連絡してくるかと思っていたけれど、今のところそういうことはなかった。
(う~ん、でも期待してるとまた裏切られそうだけど……)

「それより、志弦さんのお仕事は大丈夫ですか? 私と碧乃のためにずいぶんお休みしてもらっちゃったから心配で」
 碧美島でもしょっちゅう仕事の電話はかかってきていたし、夜遅くまでノートパソコンを開いてはいたけれど。
 彼はがっくりと肩を落とす。
「明日からはしばらく休みなしだ。来週にはまたロンドンだし……二週間も清香と碧乃に会えないなんて」
 志弦は心底不満げにそうこぼした。

 志弦がロンドンに旅立って数日後、大河内家に茉莉が遊びに来てくれた。
「きゃ~、食べちゃいたいくらいかわいい!」
 茉莉は碧乃に頬ずりしながら、弾んだ声をあげる。碧乃はサービス精神旺盛な子で、誰かにあやしてもらうたびに愛らしい笑顔を見せていた。
「笑った目元が清香に似てる」
< 166 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop