秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 泣き出したいのをこらえて、無理やり作った笑顔はどこかいびつだった。
 一度くらい好きな人と。そう正直に言わなかった理由は、自分でもよくわからない。

 碧美島から戻ってきて、すぐ。清香はまた榛名画廊に呼び出されていた。見合い話の返事をした覚えはないのだが、琢磨はすっかり規定事項として話を進めている。
「しきたり?」
「あぁ。なにせ名家だからな。縁談にも大河内家独自の手順があるそうだ」

 それによると、まずは昴本人と清香、ふたりだけの顔合わせ。そこで問題ないと判断されると、『花嫁候補』に昇格することができるらしい。
「そのあとは、大河内本家で三か月、みっちりと花嫁教育を受けるんだ。これに合格できて初めて正式な婚約者と認められる」
 唖然として開いた口が塞がらない。縁談というより、まるで『試験』だ。清香のみが一方的に品定めをされる。

「そこでようやく良家の顔合わせ、結納へと進んでいく」
 琢磨はそこまでたどり着けるものと信じているようだったが、清香にはその根拠がさっぱりわからない。
「お父さん。そんなに厳しい選考があるなら、私じゃとても無理なんじゃないかな」
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