秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「でも、根っこは優しい人だと思うの」
「そうなんですか?」
 遠慮なく驚いた顔をしてしまった清香に、千佳はぷっと噴き出す。
「清香さんって正直者! うん、前に風邪で体調が悪かったときに今日は暇だから帰れって言ってくれて……その日は来客が多くて、実際はてんてこまいだったのに。ほら、ツンデレってやつ? 悪い人じゃないの」

(ツンデレ……私もいつか駒子さんのデレの部分を見られるかな?)
「でも、それを聞けて安心しました」
 少なくとも、あと数か月は彼女に指導を受ける立場だ。同僚に人望のある人物であることがわかってほっとした。
 千佳になら……そう思って、気になっていたことを質問してみた。大河内家の内情だ。

「あの、昴さんと志弦さんのお父さまは、こちらにお住まいではないんですか?」
貴之(たかゆき)さんは数年前に持病が悪化して、伊豆の別荘で療養しているの。実質、隠居しているようなものね。もちろん積極的に公表はしていないけど、財界では知られている話よ」
「そうなんですね」
 そういえば、身体があまり丈夫ではないといううわさは聞いたことがあった。
「では、お母さまも伊豆でご一緒に?」
 千佳は苦笑して首を横に振る。やや言いにくそうに答えてくれる。
< 67 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop