秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「う~ん。最初は伊豆で一緒に暮らしていたんだけど、一年ももたずに東京に帰ってきたわ。お嬢さま育ちの涼花(すずか)さんの性には合わなかったんでしょうね」
 兄弟の母は涼花という名のようだ。彼女は生まれ育った白金に別邸を購入し、暮らしていると千佳が教えてくれた。

(昴さんは六本木のマンション、伊豆と白金にも別邸。本当にセレブなんだなぁ)
「源蔵さまがこの屋敷にいらした頃は名実ともにここが本家でにぎやかだったけどね、最近はすっかり静かになっちゃって」
 千佳は困ったように肩をすくめてみせる。
「本来なら後継者に指名された昴さんがここに来ないといけないんだけど、昴さんは堅苦しいのがお嫌いみたいで。でも、本家に大河内の人間が誰もいないのは変でしょうか。それで志弦さんがこちらに――」
「あの~」
 説明の途中にもかかわらず、思わず口を挟んでしまった。この屋敷に来てからもずっと疑問に思っていたことだ。

「お兄さんの志弦さんがいるのに、どうして昴さんが後継者なんでしょうか?」
 持病のある貴之が外れるのは理解できるが、志弦は健康そうだし能力が素行に問題があるようにも見えない。
 清香の疑問に千佳は逆に驚いた顔を見せる。
「あら、清香さんは知らなかったのね」
「なにを、でしょうか?」
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