秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「志弦さんと昴さんは腹違いなのよ。志弦さんは前妻さんの子。妾の子でもないし、本来なら跡取りは志弦さんになるんでしょうけど……涼花さんは実家がすごいから」
 千佳の話によると、涼花の実家は皇族に連なる名家で大河内家といえども彼女のことはむげにはできないそうだ。

 千佳は打ち明け話をするように、こっそりと言う。
「これは本当かどうか知らないけど、涼花さんの略奪婚だったらしいもの」
 志弦の実母は涼花に負けて、大河内家を追い出されてしまったということらしい。
 千佳は続ける。
「でもまぁ、そのへんの事情を抜きにしても後継者にふさわしいのは昴さんだって話よ。ちょっと軽薄そうな雰囲気の方で私は苦手だけど……仕事はすごく有能らしいから」
 そこまで言ってから、千佳ははっとして口をつぐんだ。
「やだ。清香さんの婚約者に私ってば失礼なことを……ごめんね、私っていつもこうなのよ。余計なひと言が多くて、この前も夫にものすごく怒られて――」

 そこから、話題は千佳のプライベートに移っていった。
(志弦さんだって、きっと優秀だと思うけどな)
 千佳のなかで志弦の評価が低そうなことに、清香はなんだか納得がいかない気分だった。

 その日も清香は仕事を終えると、まっすぐに大河内家に帰宅した。
 立派な日本庭園を眺めつつ、母屋へ向かう。頬に吹きつける風は冷たく乾いていて、本格的な冬の訪れを実感する。
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