秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 血がにじんだ清香の指を、志弦はためらうそぶりもなく口に含んだ。柔らかな舌に舐めあげられる感触は、ひどく官能的で清香の身体に熱がともる。
「う、んっ」
 思わず変な声が出てしまった。恥ずかしさに頬を染めると、志弦はより深く清香の指をくわえ込んだ。ふたりきりの静かな部屋に、ぴちゃりと湿った音が響く。
(ダメ。志弦さんに触れられると、頭も身体もとろけて……おかしくなる)

「し、志弦さんっ」
 制止の意を込めて、少し大きな声で呼びかける。すると、彼はびくりと肩を揺らして清香を見た。その瞳がとても熱っぽく見せて、清香の鼓動は暴れ出す。
「あ、その」
「あぁ、すまない」
 志弦は清香の指を解放すると、救急箱から新しいガーゼを取り出して傷ついた指先を包み込んでくれる。口に含まれるのもドキドキしたけれど、指先が絡み合うこの状況も清香には毒だ。全身の血が集まっているのではと思うほどに顔が熱い。

「母の癖だったんだ」
「え?」
 なんの話だろうと首をかしげて彼を見あげると、志弦は懐かしそうな、そして、悲しげな微笑を浮かべていた。
「怪我をしたら、キスをすれば大丈夫だって。母の口癖だった」
 追い出されてしまったという実母の話なのだとわかった。あどけない少年に戻ったような、その表情はほんの一瞬で、彼はすぐにいつもの凛々しさを取り戻す。
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