秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
(子ども扱いと思われてしまったのだろうか)
「すまない。……気を悪くするようなことを言ってしまったか?」
 彼女は顔を背けたまま、かすかに声を震わせた。
「そうではなくて……わかりやすいと言われてしまうと、あなたの顔を見られません」
 一撃で心臓を射貫かれた、そんな気分だった。

(いくらなんでも、かわいすぎるだろう……)
 両手をあげて降参するしかない。
 自分を見るときの彼女の瞳はキラキラしている。それは決して勘違いではないと、彼女本人が肯定してくれたのだ。
 志弦の気持ちはどんどん膨れあがっていき、歯止めをかけることはできなかった。

「聞いてしまって、君を抱けなくなるのは嫌だ」
 なにかを打ち明けようとしていたのに、自分のエゴを優先してしまった。
 柔らかなぬくもりは、志弦を世界で一番幸福な男にしてくれる。この甘い時間が結果的に彼女を傷つけることになるのでは……頭の隅にあったそんな思いを強引に消し去り、目の前の愛する女性に溺れた。

 翌朝になって彼女の口から火遊びだったと聞かされたときはショックだったが、碧美島から戻り冷静になると、誰でもいいから男と遊びたいという類のものではないことは理解できた。どれだけ悪いほうに考えても、そんな女には見えない。
(なにか事情があるんだろう)
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