秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 真剣な声で言うと、なにか言いたげな間が流れた。
『ていうか、なんで兄貴が? 家のゴタゴタなんて、いつも面倒そうな顔してるくせに』
 そのとおりなので、反論できない。志弦が言葉を詰まらせたことで、昴はなにか勘づいたらしい。
「もしかして、その女を気に入ったとか?」
「そういうことじゃ――」
 図星だったので反論が遅れた。品のない含み笑いで彼は言う。
『別にいいよ。味見くらいなら、させてやるよ。なんなら、あっちの具合がどうか俺の代わりにテストしといて』
 あまりにひどい暴言に、志弦は無言で通話終了ボタンを押す。

 昴は女性を愛玩用のおもちゃとしか思っていない男だ。あり余る財産と整ったルックス。非道のかぎりを尽くしても女はいくらでも寄ってくるし、そういう女にばかり囲まれているからますます女性への尊敬の念を失っていく。
 志弦は小さく舌打ちする。
 清香なら昴も変わるかもしれない。たしかに一瞬、そんな期待を抱いたが、変わらなかったらどうするのだ? 
 昴のような男が清香に触れることに、自分は我慢できるだろうか。

 あの夜を思い出す。
 上気した白い頬、誘うように潤んだ瞳、柔らかくぬれた唇。
 彼女を思うだけで、身体の芯に火がともる。
 折れそうに華奢だったウエスト、腰に絡みつく細い脚、純白のシーツに広がった艶やかな黒髪。
(誰にも見せたくない。淫らな清香を知る男は俺だけでいい)
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