秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 そう言って渡されたものは、広島を拠点にしている球団のマスコットキャラクターのぬいぐるみだった。清香は困惑げに首をかしげる。
「私、野球はちっとも詳しくないけど……?」
「うん。私もまったく知らない」
「じゃあ、なんでこれ?」
 かの有名な和菓子とか、ほかに無難なものがいくらでもありそうなのに。
「宿のおじさんが広島土産といえば、これだってオススメしてくるからさ」

 ファッションやインテリアのセンスは抜群な茉莉だが、なぜか土産のチョイスだけは変だった。清香の部屋の出窓には、茉莉が全国各地で買ってきたよくわからない土産ものがずらりとコレクションされている。今はそっくりそのまま大河内家で与えられている部屋に並んでいて、いつも千佳に妙な顔をされている。
(でも、次はなんだろう?って、楽しみでもあるのよね)

「ありがとう」
 コレクションが増えたことに礼を言うと、茉莉はイヒヒといつものよう笑った。
「でも、すぐ近くに清香がいないとやっぱり寂しいなぁ。この縁談がまとまっちゃったら、もうマンションには帰ってこないってことでしょ?」
 いまだに顔を合わせてもいない昴との縁談がまとまるとは思えなかったが、寂しそうな顔をされたことは素直にうれしかった。清香も同じだから。
「彼氏と暮らしたら? 同棲しようって誘われてるんじゃなかった?」
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