秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 いつも大人っぽい茉莉が、頼りなさげな少女みたいな顔をしている。
(ついに見つけたのかな? 運命の恋)
 これまでの恋とは違うことが、清香にもわかった。胸がポカポカと温かくなる気分だ。
「妻子持ちじゃないなら、全力で応援する! 運命の恋、絶対に成就させてよね、茉莉」
「もぅ、簡単に言わないでよ。とんでもなく難攻不落なんだから」
 茉莉にここまで言わせるなんて、どんな男性なんだろう。彼女が『恋人だ』と言ってその人を紹介してくれる日が今から楽しみだ。

「あ~もう! 私の話はおしまい。清香は? 花嫁修業なんて前時代的な体験はどう?」
 思いきり照れた顔で、茉莉は無理やり話題を変えた。
 茉莉と違って自分の話は楽しい内容ではない。肩を落として、話し出す。
「う~ん。花嫁修業のほうは、仕事みたいな感じでまぁなんとか……」
「なにそれ? ほかに問題があるみたいな口ぶりね」
 問いただされて、正直にいまだに昴と対面していないことを告げる。

 茉莉は自分のことのように憤慨し、ドンと大きな音を立ててマグカップをテーブルに叩きつけた。
「ちょっと、茉莉。お店のものだからねっ」
 そんな小言には耳を貸さず、額に青筋を浮かべている。
「もう二週間以上よね? 花嫁修業なんて偉そうに呼びつけておいて、顔も出さないわけ?」
 忌憚なく言えば、そういうことになるだろうか。清香はこくりとうなずく。
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