恋とも云えない
3.さよならを云えば他人
他部署との打ち合わせに、彼が来るとは思わなかった。

「篠田さん、少し痩せたんじゃない?」

持っているコーヒーを落としそうになる。もう関係は終わっているのに。どうして、そんなに距離をつめてくるのか。

「セクハラで訴えますよ」

二人きりになってしまった部屋で、元上司である彼が心配そうにこちらを見つめている。

「束縛するのは違うと思った」


それは何の理由ですか?
私を振った理由?

「わかってますよ、もう私など何ともおもっていないことは。そのぐらいの温度は分かりますから」

彼から私への好意は感じられなかったし、どちらかというと少し面倒臭そうでもあった。はっきりと私を振らないこと。始まりすらなかったこと。

そういえばこの男は一度も私を好きだと言ったことがなかったな、思い返せば思い出すほど、苦しくなる。

「だから、束縛するのは違うと思ったから」

「どうぞお幸せに」

私は彼の横をすり抜けて、その部屋を出た。もう彼とは終わったのだ。これで、終わり。もう終わり。

自分に言い聞かせる。


どうして人は恋なんかするんだろう。
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