真夏の情事は、儚い夢のようで
「お前、今からどうすんの?」
ファミレスを出ると大地が私の顔を覗き込んだ。
「ホテル行く?」
「この話の流れでよくそれ言えたな!しかも昼間も行ったじゃん!」
大地がまた笑いながら突っ込んだ。
「今日はもう行かない」
ホテルに行きたいだなんて、ふざけて言ったはずなのに、大地の返事に思わず涙が溢れそうになった。
私はなんて自分勝手なんだろう。
「大地にも抱いてもらえなくなったら、私どうしたらいい?」
涙で潤んだ瞳を見られないように俯いた。
「そんなんじゃねぇよ。あんまり自分を貶めるなよ」
俯いて動かなくなった私を見兼ねて、大地が小さくため息をついたのが分かった。
「じゃあ、俺んち行く?」
「え……?」
大地に借りた大きなTシャツを着ると、太ももの中程まで隠れてホッとした。
そのままバスルームから出ると、大地が笑った。
「いいじゃん、エロくて」
着の身着のまま飛び出してしまったために、Tシャツの中はといえば、上はナイトブラだし、パンツだって色気のないグレーのシームレス。
エロさの欠片もない。
「あ、いや、私はこっちで」
私は思わずベッド横に敷かれた黒いラグを指差した。
「今さら遠慮なんかしてんなよ。同じベッドになら何度も入ってんじゃん」
黒いシーツが掛かったセミダブルのベッドに横たわると、大地がポンポンとその隣を軽く叩いた。
「ほら!」
「じゃ、じゃあ…」
スッと大地の横に滑り込んで、大地とは反対の方を向いて横たわった。
大地も寝返りを打って、私とは反対側を向いたようだった。
「子供の頃、何度かこうして一緒に寝たな」
ふいにそう言われて驚いたが、久しぶりに昔話を共有できることが何だか嬉しかった。
「え、あ!そうだね。あの頃はうちの両親が忙しくて、よく大地ん家に預かってもらってたんだよね」
「そうそう、うちで一緒に飯食って、大抵は夜迎えが来て帰ってたけど、たまに泊まる時は一緒に寝てたな」
「なかなか眠れなくて、お布団の中でこっそりゲームしたりね」
「で、うちの親に見つかって二人して怒られんのな、いつも」
二人で思わず笑った。
「何でバレてたんだろう?」
「それはお前が負けてばっかで、悔しくて大きな声出すからだろ!大地がズルしたーって」
「そうだっけ?」
「そうだよ。でもいつからだろうな、そういうことしなくなったの」
その言葉に胸が詰まった。
大地は覚えていないぐらい、大したことではなかったのだろうが、当時の私には大事件だった。
「中学入ってすぐ大地に彼女ができたから」
「そうだっけな。よく覚えてんな」
「そりゃあ…ショックだったから…」
言うか言わざるべきか、一瞬迷ったが恐る恐る正直な言葉を選んだ。
「………」
「大地…?」
身を翻して、急に黙った大地を覗き込むとすやすやと寝息を立てていた。
「肝心なとこで寝てんじゃん!」
ぺちんと寝息で揺れる肩を叩いた。
聞かれていなかったことに安堵してから、ふぅとため息をついて天井を見上げた。
こんな関係をやめようと話をしていたはずなのに、結局こうして大地と時間を共有している。
朝早くに目が覚めた。
夫からの連絡は一切入らなかった。
隣を見ると大地が反対側を向いたまま、まだ寝息を立てている。
ふうと一息ついてから、そっとベッドを出た。
手持ち無沙汰なのが、なんとなく耐えられなくて、冷蔵庫を開けてキッチンに立った。
サラダとスクランブルエッグを作り、ソーセージを焼いたところで後ろから大地の声が響いた。
「何してんの?」
「あ、おはよう!泊めてもらったし、朝ごはんぐらいは作ろうかなって。勝手に冷蔵庫開けちゃったけど、案外食材入っててびっくりした」
「ああ、実家から親が定期的に送ってくるから」
「親ってそういうもんだよね。どこの親も一緒…」
程よく焼き目がついたソーセージを皿に盛り付けていると、後ろからふわりと抱き締められた。
「そうやって、旦那にも朝食作ってんだ?」
耳元で大地が囁くように呟いた。
「え、あ…うん」
「ふうん。愛されてんのな、旦那は」
「そんなんじゃないよ…」
「でも抱きはしないんだもんな」
「………」
「せっかくなら、裸エプロンでもすればいいのに。旦那も興奮するかもよ?」
「そんなわけないじゃん!そんなバカなことして喜ぶのは大地だけだから!」
「好きだよ、そういうエロいの。旦那が知らないエロい果奈も好き。俺に抱かれて興奮する果奈はもっと好き」
そう言って、来ていたTシャツを脱がされた。
大地はナイトブラとパンツだけになった私の手をシンクにつかせて、そのまま腰をぐいと引き寄せてから下着に手を掛けた。
「ちょっとっ…しないんじゃなかったの?!」
「それは夕べの話。朝は別」
まるで女としての私は自分のものだと言われているようで、胸が疼いた。
「それに、こういうのやめようって言ってなかった?!」
「…手離したくなくなった。お前が一晩帰らなくても連絡一つよこさない男なんか捨てちゃえよ…」
嫉妬にも似た大地の少し強引な指使いに、思考が奪われていく。
そうしてまた大地が与える快楽に、私は呑み込まれていくのだ。
抜け出せない。
身体の相性なんて分からない。
理屈なんて知らない。
ただただ求めてしまう。
ダメだと知っていても、抜け出せない。
終わりのないループのように、ぐるぐると回りながら堕ちていく。
このままではやはりいけない。
区切りをつけなければ、こんな中途半端な状況では何の解決にもならない。
そう思うのに、ただただ業だけが深くなっていくだけだと思うのに。
不倫なんてそんなもの。
終着点はどこなのか誰にも分からない…ー。
ファミレスを出ると大地が私の顔を覗き込んだ。
「ホテル行く?」
「この話の流れでよくそれ言えたな!しかも昼間も行ったじゃん!」
大地がまた笑いながら突っ込んだ。
「今日はもう行かない」
ホテルに行きたいだなんて、ふざけて言ったはずなのに、大地の返事に思わず涙が溢れそうになった。
私はなんて自分勝手なんだろう。
「大地にも抱いてもらえなくなったら、私どうしたらいい?」
涙で潤んだ瞳を見られないように俯いた。
「そんなんじゃねぇよ。あんまり自分を貶めるなよ」
俯いて動かなくなった私を見兼ねて、大地が小さくため息をついたのが分かった。
「じゃあ、俺んち行く?」
「え……?」
大地に借りた大きなTシャツを着ると、太ももの中程まで隠れてホッとした。
そのままバスルームから出ると、大地が笑った。
「いいじゃん、エロくて」
着の身着のまま飛び出してしまったために、Tシャツの中はといえば、上はナイトブラだし、パンツだって色気のないグレーのシームレス。
エロさの欠片もない。
「あ、いや、私はこっちで」
私は思わずベッド横に敷かれた黒いラグを指差した。
「今さら遠慮なんかしてんなよ。同じベッドになら何度も入ってんじゃん」
黒いシーツが掛かったセミダブルのベッドに横たわると、大地がポンポンとその隣を軽く叩いた。
「ほら!」
「じゃ、じゃあ…」
スッと大地の横に滑り込んで、大地とは反対の方を向いて横たわった。
大地も寝返りを打って、私とは反対側を向いたようだった。
「子供の頃、何度かこうして一緒に寝たな」
ふいにそう言われて驚いたが、久しぶりに昔話を共有できることが何だか嬉しかった。
「え、あ!そうだね。あの頃はうちの両親が忙しくて、よく大地ん家に預かってもらってたんだよね」
「そうそう、うちで一緒に飯食って、大抵は夜迎えが来て帰ってたけど、たまに泊まる時は一緒に寝てたな」
「なかなか眠れなくて、お布団の中でこっそりゲームしたりね」
「で、うちの親に見つかって二人して怒られんのな、いつも」
二人で思わず笑った。
「何でバレてたんだろう?」
「それはお前が負けてばっかで、悔しくて大きな声出すからだろ!大地がズルしたーって」
「そうだっけ?」
「そうだよ。でもいつからだろうな、そういうことしなくなったの」
その言葉に胸が詰まった。
大地は覚えていないぐらい、大したことではなかったのだろうが、当時の私には大事件だった。
「中学入ってすぐ大地に彼女ができたから」
「そうだっけな。よく覚えてんな」
「そりゃあ…ショックだったから…」
言うか言わざるべきか、一瞬迷ったが恐る恐る正直な言葉を選んだ。
「………」
「大地…?」
身を翻して、急に黙った大地を覗き込むとすやすやと寝息を立てていた。
「肝心なとこで寝てんじゃん!」
ぺちんと寝息で揺れる肩を叩いた。
聞かれていなかったことに安堵してから、ふぅとため息をついて天井を見上げた。
こんな関係をやめようと話をしていたはずなのに、結局こうして大地と時間を共有している。
朝早くに目が覚めた。
夫からの連絡は一切入らなかった。
隣を見ると大地が反対側を向いたまま、まだ寝息を立てている。
ふうと一息ついてから、そっとベッドを出た。
手持ち無沙汰なのが、なんとなく耐えられなくて、冷蔵庫を開けてキッチンに立った。
サラダとスクランブルエッグを作り、ソーセージを焼いたところで後ろから大地の声が響いた。
「何してんの?」
「あ、おはよう!泊めてもらったし、朝ごはんぐらいは作ろうかなって。勝手に冷蔵庫開けちゃったけど、案外食材入っててびっくりした」
「ああ、実家から親が定期的に送ってくるから」
「親ってそういうもんだよね。どこの親も一緒…」
程よく焼き目がついたソーセージを皿に盛り付けていると、後ろからふわりと抱き締められた。
「そうやって、旦那にも朝食作ってんだ?」
耳元で大地が囁くように呟いた。
「え、あ…うん」
「ふうん。愛されてんのな、旦那は」
「そんなんじゃないよ…」
「でも抱きはしないんだもんな」
「………」
「せっかくなら、裸エプロンでもすればいいのに。旦那も興奮するかもよ?」
「そんなわけないじゃん!そんなバカなことして喜ぶのは大地だけだから!」
「好きだよ、そういうエロいの。旦那が知らないエロい果奈も好き。俺に抱かれて興奮する果奈はもっと好き」
そう言って、来ていたTシャツを脱がされた。
大地はナイトブラとパンツだけになった私の手をシンクにつかせて、そのまま腰をぐいと引き寄せてから下着に手を掛けた。
「ちょっとっ…しないんじゃなかったの?!」
「それは夕べの話。朝は別」
まるで女としての私は自分のものだと言われているようで、胸が疼いた。
「それに、こういうのやめようって言ってなかった?!」
「…手離したくなくなった。お前が一晩帰らなくても連絡一つよこさない男なんか捨てちゃえよ…」
嫉妬にも似た大地の少し強引な指使いに、思考が奪われていく。
そうしてまた大地が与える快楽に、私は呑み込まれていくのだ。
抜け出せない。
身体の相性なんて分からない。
理屈なんて知らない。
ただただ求めてしまう。
ダメだと知っていても、抜け出せない。
終わりのないループのように、ぐるぐると回りながら堕ちていく。
このままではやはりいけない。
区切りをつけなければ、こんな中途半端な状況では何の解決にもならない。
そう思うのに、ただただ業だけが深くなっていくだけだと思うのに。
不倫なんてそんなもの。
終着点はどこなのか誰にも分からない…ー。