華に浪漫~夜伽のはずですが溺愛されています~
「…」
「京様にはいくつもの縁談の話がございました。しかしあの人は一度も頷きませんでした。まぁまだ若いという理由で周囲も強制することはしていないのです」

これほどまでにいい家に生まれた京に縁談の話がないわけがない。
変わり者なのか、他に想い人がいるのか分からないが、つばきにとってはどうでもいいことだった。どうにかしてここから逃げて自ら死を選ぶ、それしか選択はない。
もちろん、今すぐには不可能だがきっと逃げるチャンスはあるはずだ。

「わたくしは、ここに仕えて10年になります。京様の幸せを一番に考えております」
「はい」

それだけ言うと彼女はすっと部屋を出ていった。
白い湯気が立つ土鍋に入った中身は想像できた。
しばらく固形の食事をとっていなかったことはつばきの体を見ればすぐに分かる。
みこはおそらくつばきの体調等に気を遣い粥を作ってくれたのだと思った。

「きっと、悪い人じゃない…」

そう呟いてそれを食べ始めたつばきは何かを食べられるだけで幸せだった。
涙が頬を伝った。
本当にひどいことをする気ならばこんな綺麗な浴衣を着せて、食事を取らせたりはしない。京が悪い人ではないこともわかっていた。
暫くすると、部屋に京が戻ってきた。
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