華に浪漫~夜伽のはずですが溺愛されています~
「庭園もございます、案内いたしますね」
「わかりました」
庭園は池があり、鯉が泳いでいた。周辺には園路が巡り、つばきは何て落ち着く空間だろうかと感嘆の息を漏らしていた。
石灯篭や鹿威しもありつい立ち尽くしてしまう。
「あとでつばきさんのお部屋もご案内いたしますが、少しこちらでゆっくりなさってください」
「え、でも…―」
「あと、お着替えもした方がよろしいかと思いますので、お部屋の案内の際にそれも説明します」
そう言ってみこはどこかへ行ってしまう。
一人取り残されたつばきはボーっとしながら縁側に座った。
大きな柱に頭をこてんとつけ、眩しい日差しを浴びながらこれが夢なのではないかと思っていた。
うつらうつらとしていると、背後から気配がした。
みこかと思い、ゆっくり振り返るとそこには何故か京がいた。
「あっ…、も、申し訳ありません!」
すぐに立ち上がろうと膝を立てると、バランスを崩してしまった。
が、京がつばきの体を支えていたおかげで倒れずに済む。
つばきはすっぽりとスーツ姿の京の胸の中にいた。まるで、“あの日”のように。
「…あの、離していただけると…助かるのですが」
「今倒れそうになったお前を助けたというのに離してもらった方が助かるというのは傷つくのだが」
「違います。そのような意味ではなく…」
口籠りながらつばきは必死に胸の鼓動を抑えようとしていた。まずは色々と感謝を伝えねばならないのに、京の胸の中にいると何も考えられなくなっていた。
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