華に浪漫~夜伽のはずですが溺愛されています~
「今日は早めに帰宅してきた。後でまた家を出るかもしれないが」
「そう…ですか」
「つばきが逃げていないか心配だった」
「…」
(やっぱり逃げようとしていたことはバレバレだったのね…)
ようやくつばきを離すと、京はつばきに着替えるように言った。
「明日には他にも着るものを用意できるはずだ」
「いえ、いりません。だって私は…」
京が先に立ち上がった。つばきに手をさし出し、自分のそれを重ねた。
見上げるほどに高い身長の京はつばきの瞳を覗き込む。
「遠慮はいらない。あぁ、そうだ。先に言っておこう。今日の夜、寝室に来い」
「え…―」
つばきは瞬きを繰り返した後、わかりましたと静かに答えた。
(そうだった、私がこの人に買われたのは“夜伽”という役目のためだった。女中の仕事を手伝わせてもらえないのは“必要”がないからだわ)
買われた以上、つばきに拒否権はない。
もちろん男性と経験などない。通常は男を悦ばせる仕事だ。
それが自分につとまるのか不安になった。
それに…―。
「そんなに泣きそうな顔をするな。別に嫌がることはしない」
つばきははっとして自分の頬を両手で包んだ。
そして首を横に振った。
「嫌がってなどおりません。私は…買われた身です」
「ふぅん、そうか。分かった。それじゃあ、お前の部屋を案内しようか」
つばきは頷き、京に続くようにして足を進めた。