華に浪漫~夜伽のはずですが溺愛されています~
しかし、京はその手を離さない。
(今夜、初仕事なのよ。このくらいで緊張していてどうするの…―)
京の手が離れた瞬間、それはつばきの後頭部に移っていた。目を閉じる間もなかった。
唇が重なったとわかった時には既に顔が離れていた。

「…あ、」

触れるだけのそれは一般的にキスというのだろう。しかし、つばきにとってそれは“初めて”のものだった。異性と接吻などをしたのは生まれて初めてだった。
顔を中心に熱を感じる。

(今の私の顔は…きっと真っ赤に違いない。こんなことで顔を赤らめていたら“仕事”なんか務まるわけがないのに!)

「なんだ、そんな顔もできるんだな」
「っ」
「顔を真っ赤にして、目線も定まらない。俺のキスでこんなに動揺してくれるとは思わなかった」
「し、しておりません!別に…このくらい…」
語尾を小さくしながら、つばきは目線を落とした。
京はまるで悪戯をした子供のような顔を見せてつばきの部屋を後にした。
つばきはようやく全身を脱力させ、床に座り込んだ。
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