華に浪漫~夜伽のはずですが溺愛されています~
…―…


部屋に戻ってもやることがなく、鏡台の前で髪を整えていた。
貰った簪を見ながらこれを京の前で使用していいものか悩んでいた。
何もやましいことはないし、外出の許可が出ているということは別に隠すことは何一つないのだ。
今日も天気が良く眠気が襲ってきたつばきは窓際に置かれてある椅子に座りながらうつらうつらと眠気と闘っていた。
すると、襖越しに声が聞こえた。
夢と現実の狭間にいたつばきは、すぐに体を起こした。が、同時に襖が開く。
スーツ姿の京が立っていた。

「つばき、」
「あ…っ、申し訳ございません。少し眠気が…」
すぐに椅子から体を離して立ち上がった。

(どうしてかしら…ものすごく、緊張する。京様と目を合わせにくい。何故?)

心拍数も上昇し、上手く言葉を紡ぐことが出来ない。
京がつばきの部屋に入ってくる。

「いいんだ。それより今日は外出したと聞いた」

髪を結う暇もなく長身の彼を見上げながら伏し目がちに頷いた。

「申し訳ございません。あの…雪ちゃん…雪さんと一緒に外出しました」
「それなら問題ない。許可してある。俺こそお前に伝えていなかった。申し訳ない」
「いえ、…あの、逃げるとは思わなかったのでしょうか」
「逃げる?」

ふっと軽く笑うと、つばきの下ろしてある髪を掬った。
艶麗に笑った京に更に胸が高鳴る。

「逃げたとしても捕まえる。絶対に」
「っ」
「どうした?顔が赤いようだが」
「日に、当たっていたからかもしれません」

適当な言い訳をして目を逸らした。

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