華に浪漫~夜伽のはずですが溺愛されています~
つい胸元に手を当ててしまうのは届くはずはないとはわかっていても鼓動が彼に届いてしまうのではないかと思っていたからだ。

「雪とはずいぶんと仲いいみたいだな」
「はい、友達感覚でお喋りするのはよくないとは思いつつも、本当にいい子で…」
「いいんだ、女中たちと仲がいいのは悪いことじゃない」
「雪ちゃんはお姉さんが事故でなくなっているのですよね。それなのに健気に頑張っている姿を見ると私も頑張らねばと思うのです」
「…事故、そう言ったのか」
「はい、違うのですか」
「いや、違わないが…」
と、京の足が止まった。

そこは宝石が並ぶ。宝石店のようだ。最近は華族や皇族の洋装化に伴ってジュエリーが店に並ぶことも増えた。

「見てみるか」
「でも、…」
「嫌か?」

首を横に振る。明らかに敷居の高い店に緊張で頬が強張る。
しかし、京の手がつばきの手に触れた。触れたというよりも握られたという表現の方が正しいのだろうが、初めての出来事に一瞬何が起こっているのか分からないでいた。

「京様…っ…あの、」
「こうでもしないと店にすら入れないからな」
そのまま店内に足を進める。いらっしゃいませ、という声が店内に響く。
「あら、一条様。今日は特別な女性と一緒なのですね」
「あぁ、そうだ。彼女に似合う指輪を」
「かしこまりました」

指輪?と戸惑う暇もなく、ショートカットの女性がつばきに「さぁ、どうぞ」と言って店の奥にある机に移動させられる。
< 49 / 70 >

この作品をシェア

pagetop