華に浪漫~夜伽のはずですが溺愛されています~
よく見ると和服姿の店員全員が指輪をつけている。

「和服でも洋服でもつけられますので、人気なんですよ」
「そうなんですか…」
「ええ、そうです。最近はプラチナにダイヤが流行っております。お似合いになると思いますよ。それから…―懐中時計も人気です。和装が多ければそちらでもいいかなと思うのですが」

どれも高級なものだろう。
つばきは申し訳なさで眉を八の字にする。京がそっとつばきの隣に来る。
不安げに京を見上げると、京は何がおかしいのかクスクスと笑った。
あまり笑うことのない京の笑顔に少しだけ緊張が解れていく。

「どれもお前に似合うな。好きなものを買っていい」
「そんなことを言われましても…どれも高級すぎます。私には…っ」
先ほど店員が言った『特別な女性』というワードを思い出す。
婚約者でもなければ、女中でもない。ただの”夜伽”役だ。
それなのに…―。

「そんなことはない。どれも似合う」
「……」

そう言われると不思議と違和感がなくなる。
幾つか指輪が並べられる。どれも素敵で選べそうになかった。だから結局京に選んでもらうことにした。
京が選んだのは桜をモチーフにした立て爪の指輪だった。
購入後、せっかくだからと京につけてもらうことになった。つばきの細くて長い指にすっと指輪を通す。店員の視線が気になるが、それよりもまるで今にも愛の言葉を囁かれそうなシチュエーションに全身を熱くした。
「よく似合っている」
「ありがとうございます。大切にします」
京は満足げに笑った。
つばきたちはそのまま店を出た。

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