華に浪漫~夜伽のはずですが溺愛されています~
「あの…」
「すまない、嫌だったか」
「いえ、そのようなことは…」

花梨がいなくなるとすぐに引き寄せていた手を肩から離した。
“大切”とはどのような意味だろう。花梨とは家同士のかかわりがある。
幼少期からの知り合いということはもしかすると、結婚の話も出ているのではないか。
「彼女は、伯爵家のご令嬢だ」
「そうですか」
本当はもう少し踏み込んで聞きたいことがあった。
しかし、つばきの立場でそれを聞くのは躊躇われた。
「行こう」
彼の言葉を合図にまた歩き出す。
(あんなに綺麗な人が京様の周りには沢山いる。私も少しでもいいから京様に似合うような女性に近づきたい)
そんな本来抱いてはならない感情も湧き出てくるのだ。
しばらく歩いていると、京がつばきの顔を覗き込む。

「わ、」
「どうかしたのか。気分でも悪いのか」
「いいえ、そのようなことは…」

ただ花梨のことが気になっていた、など言えるわけがない。今のつばきは屋敷に住まわせてもらっているだけ十分すぎるほどに良くしてもらっている。
「そうか。この店で簪でも選ぼう」
「…はい」
京の目線の先にお洒落な外装の店がある。そこへ入ると、先ほどと同様に気品のある女性店員が迎えてくれる。
京はどの店でも顔が知られているようだった。
どうして京が簪をプレゼントしたいといったのか未だに理解できずにいた。
そこのお店は簪だけではなく、時計や小物なども売っているようだ。
髪飾りもたくさんある。
最近は大き目のリボンの髪飾りが流行っているようだ。闊歩する女性たちの多くがそれをつけていたのを思い出す。
感嘆の声を漏らしながら店内を見て回る。他にもお客はいるが、皆裕福そうな装いをしている。


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