たとえこの世界から君が消えても
「思い出したくない過去があるからこそ、今の陽菜がいるんだろ?」



ハッと顔を上げると、真剣な顔の奏多と目が合った。



「陽菜は最初からずっと優しい人だったよ。辛い思いをしている人に、自分から手を差し伸べることができて、寄り添ってあげられる。ずっと見てたから、俺にはわかるよ。陽菜が思い出したくなくても、俺は何度でもあの頃の、一人で戦っていた強い陽菜を思い出す」



じわりと視界が滲み、慌てて奏多から視線を逸らす。



「奏多のそういうところ…ずるい」


「ははっ、陽菜の泣き虫ー」


「うるさいっ」



意地悪を言ってくる奏多だが、優しく頭を撫でてくれる。


奏多のこういう優しさに、いつも私は助けられているんだ。



「うわあ…屋台いっぱいあるね!」



もっと小規模なお祭りかと思っていたが、向こう側まで屋台がぎっしりと埋め尽くされていた。



「ねえ、奏多!私、りんご飴…きゃあ!」



人の波に呑み込まれ、満員電車の中にいるかのようにぎゅうぎゅうに押しつぶされる。
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