たとえこの世界から君が消えても
「うう…苦し…っ」


「陽菜!」



奏多に力強く腕を引かれ、人の波から抜け出すことができた。



「大丈夫か!?」


「ごめん、ありがとう…」


「本当、陽菜は危なっかしいな。で、なんだっけ?りんご飴が食べたいんだろ?」



奏多がぎゅっと手を握り、スタスタと歩き出した。


はぐれないように手を繋いでくれる奏多の優しさに、頬が緩む。



「んーおいしー!」


「どっちかにしろよ…」



右手にりんご飴、左手にわたあめを持ちながら首を傾げる。



「だってお祭りだよ?どんどん食べないと、なくなっちゃうでしょ!」


「はいはい。俺、焼きそば買ってくるからそこの木の下で待ってて」



奏多が指差した先で、大人しく待つこと数十分。


両手に持っていた食べ物がなくなっても、まだ奏多は帰ってこない。
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