たとえこの世界から君が消えても
正直、朝ひどい言葉を言ったばかりで、今母さんと顔を合わせるのは気まずい。


図書室の前でしばらく行ったり来たりを繰り返し、やっと覚悟を決めて勢いよく扉を開ける。



「…蓮?」



まだ昼休みに入ったばかりだからか、図書室にはちょうど本の整理をしていた母さんだけがいた。



「…これ、高田先生が持ってけって」


「ああ、今月の新刊ね。重かったでしょ?ありがとう」



にっこりと笑いかけてくる母さんを直視できず、思わず視線を逸らす。


いつもそうだ。俺がどんなにひどい言葉を言っても、家に帰ると変わらず笑いかけてくれる。


今だって、心配してくれた母親に向かって大嫌いだと冷たく突き放した息子に、まるで最初から何もなかったかのようにいつも通り接してくれている。



「…そんな優しさ、俺に向けんなよ」


「え?」


「なんでいつも通り笑えるんだよ。俺、朝あんたにひどいこと言ったのに…。こんな息子、呆れるだろ?なんでほっといてくれないんだよ!」



…違う。こういうことが言いたいわけじゃない。
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