たとえこの世界から君が消えても
どうして素直になろうとしなかったんだろう。


母さんの優しさに甘えて、いつまで経っても変わろうとしなくて。


大切な人が目の前から消えてしまうかもなんて考えたことすらなかった。



「蓮…。いいの、自分を責めないで。素直になることはすごく難しいことって知ってるから。蓮にうんざりしたことなんて、一度もないよ。親子だもん。蓮が本当に言いたいことくらい、なんとなくわかってるわよ」



優しく微笑みながら母さんは、涙が溢れて止まらない俺の頬に手を震えながら伸ばしてきた。



「少しずつでいいの。自分の気持ちを相手に伝えられるように、きっと蓮もなれるから…。だから…だいじょ…」



するりと母さんの手が頬から離れて、床に落ちた。



「母さん…?」



大丈夫だと、笑ってほしい。


母さんは笑顔がよく似合う人なんだ。


母さんの笑顔が俺は昔からずっと好きなんだ。



「母さん…母さん!」



呼びかけても、母さんが目を開けることはなかった。
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