たとえこの世界から君が消えても
–––パサっ。



首を傾げていると、何かが落ちた音がした。


不思議に思い、音のした方に近づくと一冊の本が落ちていた。


拾い上げてからハッとする。



「これ…」



それは一冊の恋愛小説だった。


小説が昔から大好きな母さんの、最も好きな小説だ。


今日はこれを借りに来たのだった。



一番好きな小説をそばに置いてあげれば、もしかしたら母さんは起きてくれるのではないか。


そんな希望を込めて。



「…うわっ」



入口の扉が開く音がし、一人の少女が入ってきた。


見慣れない制服を着ている少女が、風の入ってくる窓に近づいていく。



たったそれだけの行動なのに、なぜかその少女から目が離せなかった。



「…あの」
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