たとえこの世界から君が消えても
気づいたら、声をかけていた。


少女は長くてふわふわとした髪をなびかせ、驚いたように振り返った。


この子は…いや、そんなはずは…。



「あ、えっと、なにか…?」



小さく振り絞ったような声は、俺の胸を締めつけるには十分だった。


間違うはずがない。



「…あんた、名前は?」


「え…?私?あ、鮎川陽菜…」



あゆかわひな。


…母さんの、旧姓だ。



怪訝そうな少女にハッと我に返り、手にしていた小説を差し出す。



「…あーこれ。この本借りたくて」


「あ、貸し出し…」



苦し紛れについた嘘に少女は気づくことなく、小説を受け取った。



「一番後ろのページにある、貸し出しカードに名前を記入してください。そしたらこっちで読み込みをするので…」


「…ん、書いた」
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