たとえこの世界から君が消えても
「…父さん」


「んー?」



父さんは、俺のせいで最愛の母さんが眠ってしまったのに、責めることは一切してこなかった。


それどころか、塞ぎ込んでいた俺を誰よりも心配してくれた。



「…ごめん。俺のせいで、母さんは…」


「蓮」



今まで言えなかった謝罪の言葉を言おうとするが、父さんに遮られる。



「蓮のせいじゃない。自分のせいで、って思い詰めるのはもうやめにしろ」



珍しく怒った厳しい口調の父さんに、びくりとする。



「蓮の年頃で素直になるなんて、難しいよな。しょうがないことだ。きっかけはどうであれ、蓮が変わりたいって思ってくれて陽菜はきっと嬉しいと思うよ。陽菜が起きたら、ちゃんと素直に謝ること。それができれば俺から言うことは何もないよ。大丈夫、陽菜は人一倍丈夫だから、そのうちけろっと起きるよ」



にこっと安心させるように笑う父さんに、思わず泣きそうになる。



「…うん。ありがとう、父さん」


「ははっ、息子からお礼言われるのってなんかむず痒いな」
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