たとえこの世界から君が消えても
…俺はずるい。


こんなに優しい人の最愛の人を傷つけて、父さんは会えない悲しみを抱えているのに、傷つけた本人である俺は陽菜先輩と話せるなんて。


どうして俺なんだ。


俺は陽菜先輩と話す資格なんてないのに。



…頭ではそうわかっていても、次に浮かぶのは陽菜先輩の眩しいほどに明るい笑顔だ。


ずるくても、陽菜先輩と会いたい。話したい。


俺にとってかけがえのない大切な人だから。



「八回目」


「え?」



今日図書室に来てからの陽菜先輩のため息の数だ。


無意識だったのか、指摘された陽菜先輩はとても驚いた顔をしていた。



「怖いの。人を平気で傷つけているところなんて見たくないのに、止めたいのに…。でも、怖くて私は何もできない…」



今にも泣いて壊れてしまいそうな陽菜先輩に、胸がぎゅっと締めつけられる。


高校時代の陽菜先輩がこんなにも辛い思いを一人で抱えていたなんて、知らなかった。



「昔から、流されっぱなしの自分が大嫌い。自分の気持ちを素直に伝えられないこんな自分が、嫌いで仕方ないの…っ」
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