たとえこの世界から君が消えても
自分でも、どういう気持ちだったのかわからない。



気づいたら、今にも消えてしまいそうな陽菜先輩を力強く抱きしめていた。


俺と同じことで、陽菜先輩も傷つかないでほしい。


俺と同じ過ちを犯さないでほしい。



「俺は陽菜先輩のこと好きですよ」



言葉にしてやっと、ああそうか、と納得した。


俺は“陽菜先輩”に惹かれてしまったんだ。



実の母親とかそういうのは今どうでもいい。


ただ、大好きで愛おしい陽菜先輩が、これ以上悲しい顔をするのは嫌だ。


陽菜先輩に似合うのはやっぱり、眩しいくらいに明るい笑顔だけだから。



「蓮くん!」



六月の終わりの日だった。


これまでで一番の笑顔で現れた陽菜先輩は、全身から嬉しさが溢れ出ていた。


俺と同じ過ちを犯さなかったことに、ホッとする。


陽菜先輩は、自分で思っているよりもずっと強い。


強くてかっこよくて、…自慢の母親だ。
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