たとえこの世界から君が消えても

3

ぴくりと母さんの指が動いた…気がした。



「母さん…っ?」



…これは、夢か?


たしかに母さんが目を開けている。



焦点の合っていない瞳が、俺を捕らえた。



「蓮くん」



突然のことに、ハッと目を見開く。


母さんじゃない。…陽菜先輩だ。


陽菜先輩がにっこりと変わらない笑顔を浮かべた。



「蓮くん、ずっと好きだったよ」



やっと言えた、と満足そうに笑う陽菜先輩に思わず涙が出そうになった。


泣きそうなのが悟られないように笑顔を浮かべる。



「…俺も、好き…だったよ」



陽菜先輩には聞こえないくらいの小さな声で、呟く。



きっとこれが最後の再会だろう。


言いたいことは他にもたくさんある。


伝えたい想いだって溢れるくらいある。


…だけど、これでいい。何も言わなくていい。



母さんが起きたことを知らせに行かなきゃいけないため、陽菜先輩に背を向け歩き出す。



「…ありがとう、蓮くん。ばいばい」



今にも消えそうなか細い声が、たしかにはっきり耳に届いた。


ハッと振り返ると、母さんは満足そうに笑顔を浮かべて再び眠っていた。



「じゃーね、陽菜先輩」



こぼれ落ちた涙をグッと拭い取り、再び歩き出した。
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