たとえこの世界から君が消えても
エピローグ
ダダダダッと階段を駆け下りる慌ただしい音が聞こえてくる。



「やっと起きた…」


「本当に蓮は朝が弱いなあ」



コーヒーを飲みながらテレビを見ていた奏多と苦笑いをし、できたてのお弁当を包む。



「ごめん、母さん。寝坊したから朝ごはん食べれない」


「何回も起こしたんだからねー?しょうがない、おにぎり作ったから食べながら行きなー」


「おお、ありがとう」



もう少し小言を言おうと思っていたが、にかっと可愛らしく笑う息子にそんな気はどこかにいってしまった。


一時期、反抗ばかりしていた蓮は、今では驚くほど素直になった。



素直になることは簡単ではない。


それは、身を持って体験した私が一番よくわかっていた。


そんな試練を蓮が自分で乗り越えてくれたことは、涙が出るくらいすごく嬉しかった。



「じゃ、いってきます」


「うん、いってらっしゃい!」



蓮が玄関のドアを開けると同時に、ぶわっと強い風が顔に吹きつけてきた。



ゆっくりと目を開けると、同じように唐突な強い風に驚いたように目を瞬かせている蓮と目が合う。


耐え切れなくなり吹き出した二人の笑い声が、爽やかな空に消えていった。
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