演歌歌手安芸野もみじ ライバー(配信)始めます
「ねぇねぇ、岡崎くん。オンラインライブっていうのかな?ネット生配信って見たことある?有名な人のライブとかじゃなくて、普通の人が歌ったりしゃべったりしてるような」

 今夜カラオケボックスのバイトで同じシフトに入っているのは、私より3つ年下の岡崎くん。リア充っぽい今時の子って感じだし、バイト中いつもスマホ触ってるし、生配信について何か知ってるかも、と期待を寄せて聞いてみた。

「あぁ、ありますよ。なんなら今見てます」

 そういってスマホの画面を私に向けると、ギターを抱えた男性が歌っているようだった。
バイト中に何やってるんだ!ということは棚に上げて、私も画面を注視する。

「へぇ、こんな感じなんだ。ねぇ、この花とか飛んでるのは何?」

「これは、視聴者からの応援エフェクトです。まぁかんたんに言うと投げ銭ですね。この花は百円くらいかな?この大きな花火は一万円なんですが、こういうのバンバン投げてもらってる配信者とかいますよ」

一万円をバンバン投げてもらえる配信。……私は思わず生唾をのみ込んだ。

「へぇ、すごいんだね。この1位とかすごい。五十万ポイント? もしかして五十万円ってこと?」

「いや、運営で分配されるんでまぁ、配信者には何割かですかね」

「半分でも、二十五万円……。あのさ、その出演者?配信者っていうのかな?そういう人ってどうやったら出逢えるのかな?」

「え?三島さん、そういうところに出逢い求めてるんですかっ」

「いや、恋愛的とかミーハーとかじゃなくて、配信する方法を知りたいんだよね。ほら、私機械音痴だし」

「あぁ、三島さんそういえば歌手目指してるんでしたっけ?」

「うん、まぁね」

 そう、バイト仲間には私が演歌歌手であるというのは秘密だ。

ポップスとかロックのアーティストならともかく、演歌歌手というのは若い世代の受けが悪いことは承知しているし、合コンでは『演歌歌ってるなんてババ臭いし、スケベな金持ちのおっさんの愛人なんだろ』とかいう偏った思考の持ち主も多かった。

そのおかげで演歌つながりの人以外の同世代に演歌の話をするのは怖くて、その話題を避けてしまう。


「俺、出来ますよ。配信。教えましょうか?」
 そういって、やさしく微笑んだ岡崎くんが私には神様に見えた。
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