演歌歌手安芸野もみじ ライバー(配信)始めます
 そして、岡崎くんが配信の仕方を教えに家に来てくれた。

「えーっと、こっちの部屋が防音なのでここで配信したいんだ」

家で発声練習とかできるように防音部屋完備のマンションを借りているのだ。地味に家賃が高くてつらいけども。

「では、三島さん。まずは、何を配信するか決めましょう。それを決めないことには準備するものも決まりません。
トーク配信ですか?歌は歌います?」

「歌いたいです!そのためのこの部屋だし」

「じゃあ、音声入力に重点を置いて、パソコンで配信にしましょう。パソコンは持ってますか?」

「はい、これなんだけど。できるかな?」

前に買ったけど、歌詞をプリントアウトするくらいにしか使っていなかったパソコンをを差し出すと岡崎くんは慣れた様子で、起動し、キーボードを操作する。

「うーん。ちょっと古いけどこのCPUなら大丈夫。ネット回線も早いし。配信に必要なアプリダウンロードしていい?」

「お願いします」

 その後も岡崎くんはサクサクとパソコンのアプリを設定したり、マイクやカメラを接続してくれた。すごい。

「じゃあ、説明するから、三島さんこっち来て」

 岡崎くんの横に座ったけど、ちょっと画面が見づらくて必要以上に密着してしまう。横顔が近すぎる。

よく考えたら、男性をこの部屋に上げるなんて初めてだ。なんか急に恥ずかしくなってきた。いつのまにかタメ語になってるし、ダメだ。意識しちゃダメ。

「あ、ごめん。見えづらい?じゃあ、ちゃんと正面座って」

 私がパソコンの正面に座ると二人羽織の様に後ろから岡崎くんが操作し始めた。
マウスの上の手に手が重なる。そして何よりこの男、声がいい。

「三島さん、ちゃんとカメラに顔向けて、しゃべってみて」

「しゃべるって何言えばいいの?」

「何でも大丈夫。しゃべる声と歌う声の調整するから」

 パソコンの画面に映る私と岡崎くんのあまりの近さに心臓がはねた。

 自分の声が入らないようにするためか、耳元で小さくささやくから、私の顔の温度がどんどん上がっていくのがわかる。いや、彼にはそんな邪な気持ちはないはず。
私だってさっきまでは全くなかったし。って言ったら、今はあるみたいじゃん。ないです。ないです。純粋に教師と生徒です。
え、それも何か関係性急にエッチな響きになるのやめて。いや、教師と生徒はエッチじゃない!

「三島さん、何か顔赤い?熱あるんじゃない?」

あぁ。その手の甲で頬に障るのやめてもらえませんか。あ、掌はもっとやめてもらえませんかぁ。

「緊張しちゃってるのかな。あはははは」
< 3 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop