演歌歌手安芸野もみじ ライバー(配信)始めます
本編終了後・岡崎視点
◆まだ生配信は終わっていません(本編終了直後のお話・岡崎くん視点)

──これは、三島さんの芸能活動に傷をつけてしまった。
女性アーティストの恋愛スキャンダルなんてファンにとっては一番見たくない光景である。それをネタではなく生配信してしまうなんて、最悪だ。

ピコンピコンと鳴るコメント画面を恐る恐る覗いて見ると、そこには予想外の言葉が並んでいた。

”え?もみじちゃんに生告白?やったね”
”配信終わってないで?”
”もみじちゃん、おめでとう!”
”チューしろ。岡崎”
”ひゅーひゅー”
”ちゃんと顔映して~声しか聞こえん”
”今気づいたんかい”
”ずっと聞いてたよー”

「みんなコメントありがとう。えへへ彼氏できちゃった」

こともなげにカメラに向かって笑顔を見せるできたばかりの俺の彼女。

「え、ちょっと、ファンの皆さんは安芸野さんに恋人出来たらショックとかそういうコメント無いの?」

”もみじちゃんは孫みたいなもんじゃからのぉ”
”男がおった方がええ歌うたえるようになるで”
”もみじちゃんを泣かすのは絶対許さん”

え、え、え。このファン層どうなってんの?

「ねぇ、岡崎くんもなんか言っとく?」

そう言ってカメラを指さす三島さん。
できたばかりの彼氏を早速晒そうとする演歌歌手もどういうメンタルしてるんだよ。

ぶんぶんと首を振るけど、彼女はお構いなしに俺の腕を取り、カメラに近づけた。

「岡崎くんです。みんなよろしく」

”おお!岡崎”
”若いな”
”チューしろ。岡崎”
”お前もなんか歌え”
”歌え歌え!”

何だ。ここはカラオケスナックか?

「三島さん、じゃないや、もみじさん。アレ使っていい?」

「ん?いいよ」

俺は、部屋の隅に避けてあったポータブルキーボードの電源を入れ鍵盤を鳴らす。
おそらく、彼女が音階の確認などに使うのだろう。六十一鍵の軽いタッチだけど十分だ。

「じゃあ、できたばかりの恋人に向けて1曲」

俺は、即興で適当なコードに詞をのせた。
日常生活では絶対に言わないような愛の言葉も、曲に載せれば恥ずかしくないのは何でだろう。いや、さっき思いっきり誰にも聞かれたくない言葉を聞かれてしまっている。だけど、今だから伝えたいことがあるんだよ。そんなことを思いながら、三島さんの目を見つめた。

え?

「何で泣いてんの?」

「だって、感動。岡崎くん、ピアノ弾きながら歌えるの?しかもオリジナル?……すごい良かった」

涙目で寄ってきた彼女を抱きしめて、頭を撫でる。

あーーー、この帯、今すぐほどきたーーい。


”岡崎いいぞ!もっと聴かせろ~”
”よかったぞ岡崎”
”チューしろ。岡崎”
”8888888”

「こほん。えー、これから先は、二人の秘密になりますので、配信を終了させていただきます。
安芸野もみじファンの皆様ご視聴ありがとうございました」

俺はちゃんと配信終了ボタンを押し、念のためパソコンもシャットダウンした。

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