ぼくらは薔薇を愛でる
麗かな日差しが降り注いでいた。
赤い屋根は日に照らされて輝き、青空に映えている。門扉を抜けると左右に植え込みと花壇があって手入れされた様子がよくわかる。夫妻、或いはそこに小さな子供がいるような家族構成の家ならちょうどいい広さの屋敷で、馬車から降りながら辺りを見回して絵本の中のようだとクラレットは思った。
「かわいらしいお屋敷……!」
レグに手を引かれて馬車を降りたクラレットは仰いだ。
「きっ、君のほうが、何倍も、その、かわいい」
語尾はもじもじしていたがすぐそばにいるクラレットには聞こえていた。
「あっ、りがとぅ……」
手をつないだ状態で向き合って、照れて俯いたまま、玄関で固まってしまった。これを玄関内から見ていた執事が微笑んで、しかしすぐ頬を引き締めて言った。
「ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」
応接間へ案内されたクラレットは、座り心地のいい椅子に腰掛けた。小さなテーブルを挟んだ向こう側にレグが腰をおろすとお茶の支度が始まった。数人の使用人がワゴンを押して入ってくる。色とりどりの焼き菓子やケーキ、サンドイッチの乗ったティースタンドが置かれ、華やかなティーポットから注がれる紅茶は香り高く、クラレットはうれしくなった。こんなに良い香りのお茶は初めてかもしれない。
「レグ、今日は招待ありがとう。ウィスタリアに帰る前にお友だちができて嬉しいの。初めてなの、こういうの」
並べられていくテーブルの上を眺めながら、レグに声をかけたが、"帰る前"という単語にレグはビクッとした。
「い、いつ帰国なの?」
「まだわからない、お仕事の話し合いのほかにも何か教えていただいてるようで、もう少し時間がかかるって」
「そうか。帰る日が決まったら教えて」
「うん、わかった」
にこっとしたクラレットが可愛すぎて、レグはまたしても片手で顔を覆って固まった。
――もうかわいさ攻撃やめて……
「レグ? どうか?」
「ご心配いりません、クラレット様。坊っちゃまは葛藤なさってるだけですから構わずどうぞお召し上がりください」
――葛藤……時々、レグは動かなくなるわ、大丈夫なのかな。
「これどこからでもいいの?」
「うん、気になったものから皿に取って食べて良いんだよ。僕のおすすめはこのレモンタルト!あっ、この一番下のキッシュも美味しいよ、ぜひ味わってみてほしい」
どれもが美味しそうで目移りしてしまう。キッシュを皿に取り、一口頬張った。ベーコンの旨味と卵の風味が美味しい。半分に切れば食べられるくらい小さく作ってくれていて、二口で食べ終えたが、まだその上にもタルトが乗っていた。
「キッシュの上の段がタルトだよ、黄色いのがレモンタルト、茶色いのはチョコバナナタルト」
カットされたレモンタルトも取り分けた。クッキー生地でできたケースの中にレモン風味のカスタードがたっぷり詰まっていて、上に乗ったメレンゲに焼き目をつけたシンプルなものだ。レモンの皮を砂糖で煮詰めたものがほんの少し飾りで乗っていて見た目にもおしゃれ。フォークで一口分切り分けて口に運ぶ。
「……おいしい! レモンの、おいしい! 酸っぱくないのね、でもレモンの風味がする」
「よかった、気に入ってくれた? うちのシェフの自慢のタルトなんだ。キッシュに次いでこれが大好き」
「私も好き!」
「ほんとう? いま料理も教えてもらっているから、うまく焼けたらご馳走する」
「お料理まで習ってるの? 楽しみにしてる!」
好きな食べ物、最近読んだ本、この街の名所など、色々と話ができた。
赤い屋根は日に照らされて輝き、青空に映えている。門扉を抜けると左右に植え込みと花壇があって手入れされた様子がよくわかる。夫妻、或いはそこに小さな子供がいるような家族構成の家ならちょうどいい広さの屋敷で、馬車から降りながら辺りを見回して絵本の中のようだとクラレットは思った。
「かわいらしいお屋敷……!」
レグに手を引かれて馬車を降りたクラレットは仰いだ。
「きっ、君のほうが、何倍も、その、かわいい」
語尾はもじもじしていたがすぐそばにいるクラレットには聞こえていた。
「あっ、りがとぅ……」
手をつないだ状態で向き合って、照れて俯いたまま、玄関で固まってしまった。これを玄関内から見ていた執事が微笑んで、しかしすぐ頬を引き締めて言った。
「ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」
応接間へ案内されたクラレットは、座り心地のいい椅子に腰掛けた。小さなテーブルを挟んだ向こう側にレグが腰をおろすとお茶の支度が始まった。数人の使用人がワゴンを押して入ってくる。色とりどりの焼き菓子やケーキ、サンドイッチの乗ったティースタンドが置かれ、華やかなティーポットから注がれる紅茶は香り高く、クラレットはうれしくなった。こんなに良い香りのお茶は初めてかもしれない。
「レグ、今日は招待ありがとう。ウィスタリアに帰る前にお友だちができて嬉しいの。初めてなの、こういうの」
並べられていくテーブルの上を眺めながら、レグに声をかけたが、"帰る前"という単語にレグはビクッとした。
「い、いつ帰国なの?」
「まだわからない、お仕事の話し合いのほかにも何か教えていただいてるようで、もう少し時間がかかるって」
「そうか。帰る日が決まったら教えて」
「うん、わかった」
にこっとしたクラレットが可愛すぎて、レグはまたしても片手で顔を覆って固まった。
――もうかわいさ攻撃やめて……
「レグ? どうか?」
「ご心配いりません、クラレット様。坊っちゃまは葛藤なさってるだけですから構わずどうぞお召し上がりください」
――葛藤……時々、レグは動かなくなるわ、大丈夫なのかな。
「これどこからでもいいの?」
「うん、気になったものから皿に取って食べて良いんだよ。僕のおすすめはこのレモンタルト!あっ、この一番下のキッシュも美味しいよ、ぜひ味わってみてほしい」
どれもが美味しそうで目移りしてしまう。キッシュを皿に取り、一口頬張った。ベーコンの旨味と卵の風味が美味しい。半分に切れば食べられるくらい小さく作ってくれていて、二口で食べ終えたが、まだその上にもタルトが乗っていた。
「キッシュの上の段がタルトだよ、黄色いのがレモンタルト、茶色いのはチョコバナナタルト」
カットされたレモンタルトも取り分けた。クッキー生地でできたケースの中にレモン風味のカスタードがたっぷり詰まっていて、上に乗ったメレンゲに焼き目をつけたシンプルなものだ。レモンの皮を砂糖で煮詰めたものがほんの少し飾りで乗っていて見た目にもおしゃれ。フォークで一口分切り分けて口に運ぶ。
「……おいしい! レモンの、おいしい! 酸っぱくないのね、でもレモンの風味がする」
「よかった、気に入ってくれた? うちのシェフの自慢のタルトなんだ。キッシュに次いでこれが大好き」
「私も好き!」
「ほんとう? いま料理も教えてもらっているから、うまく焼けたらご馳走する」
「お料理まで習ってるの? 楽しみにしてる!」
好きな食べ物、最近読んだ本、この街の名所など、色々と話ができた。