ぼくらは薔薇を愛でる
 オーキッドは受付に声をかけて、空いている応接間を借りてくれた。一番狭い応接間だが、子供二人にはちょうどいい。暖炉と二人掛けソファが二脚にテーブルがあるだけの応接間に入り扉を閉めてすぐ、レグはクラレットを抱きしめた。

「こんなに冷えて――ごめんね、待っててくれたんだろう?」
 執事が用事で出かける時、クラレットらしい女の子がベンチに座っているのを見かけた。用が済んで屋敷に戻る時もまだその子は座っていた事を、帰宅したレグに報告した。
 今日、レグは急な呼び出しで城に戻っていたから、昼休憩もなにもなかったのだ。いつものように働いていたなら、昼の休憩で会えたはずだった。

 クラレットと並んでソファに座り、手を握る。冷たかった手は赤みを取り戻してきて、うつむいていたクラレットが口を開いた。

「あのね、私たち明日朝にここを出ることになったの」
 言いながらレグの方を見遣った瞬間だった。柔らかいものが唇に触れた。それが口づけだと認識するよりも早く、レグが言う。

「先ほど君のお父上から聞いた。明日の朝だって」
 こくりと頷く。視界が一気にぼやけてくる。重なっているレグの手を握り返して言った。

「レグ、ありがとう。とっても楽しかった」
 眦は赤く濡れたままで、懸命に笑顔を作る。

「きっと力をつけて、君を迎えに行く」
 そう言ったレグは、自らの首から外した首飾りをクラレットの首に掛け直した。革紐にはとても小さなリングが通っており、濃い青色の石が付いている。

「次に会える時まで持っていて」
「これは」
「僕たちを繋ぐ印だよ。肌身離さず付けていて」
 うん、とうなずくクラレット。

「あの、私も」
 ずっと手に持っていた、小さな巾着袋からクマのぬいぐるみを取り出した。チェック柄のクマだ。

「中にラベンダーのポプリが入ってるの、眠れないときは枕元に置いて」
「クラレットの手作り? ありがとう、大切にする」
 ふわりと抱きしめた。

「私も大切にするね」
 うん、と二人頷き合ってから重なる唇。今度はしっかりとわかった。

「レグ、あのね、あの」
 こつん、と額同士をくっつけて、笑いあう。
「ん」
「好き。がんばってね。疲れたらクマと一緒に寝てね。それから、キッシュ楽しみにしてる」
 目尻を濡らしながら、具はじゃがいもたっぷりにして、と希望も追加すれば、笑いがおきる。そうして沈黙が訪れた。

「――僕もクラレットが好きだ。必ず君を迎えに行くから」
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